なぜiPhone XRで3D Touchは採用されなかったのか
iPhone XRには、iPhone XS/XS Maxと異なり「3D Touch」が搭載されていません。しかし、一体どれだけのユーザーが3D Touchを活用してきたのでしょうか。ニュースサイトTHE VERGEが「3D Touchがあることすら知らない」という興味深いコラムを掲載しています。
なぜiPhone XRで見送ったのか
3D Touchは、ディスプレイ上で画面を強く押すことでショートカットやプレビューなどの特殊な操作ができる機能です。
単なる長押しとは異なり、Appleの開発した特殊なリニアモーター「Taptic Enigine」によって初めて可能となる技術です(Tapticは“Tap(タップ)”と“Haptic(触覚)”からなるAppleの造語)。
しかしiPhone6sから採用されている3D Touchは、iPhone XS/XS Maxと異なり、iPhone XRには搭載が見送られています。
これを素直に「iPhone XRは廉価版だから採用されていないのだ」と解釈することも可能ですが、THE VERGEは「最も多くの人々が購入するであろうiPhoneに、Appleが搭載しなかった事実」を重くみるべきだと指摘します。
iPhone XRで見送ったことで悪循環が生まれる?
iPhone XRは10月末発売ながら、2018年下半期に発売される新iPhoneのなかで、出荷台数シェアが50%を超えると見込まれています。また、iPhone XRが発売されるまでiPhone XS/XS Maxを買い控えする消費者の存在も指摘されています。
それだけのiPhoneに3D Touchを採用しないということは、iOSアプリを開発するデベロッパーにとっては、同機能を積極的にサポートする理由がありません。デベロッパーがサポートしたがらないということは、3D Touchが一層使われなくなることも意味します。
これはまさに“悪循環”そのものでしょう。問題はなぜAppleがそれを選択したのかです。
存在を知らないユーザーもいる
もともと3D Touchは「どのボタンで使えて、何が起こるのか分からない」「視覚的なガイダンスがない理由が不可解(リーク情報に詳しいジョン・グルーバー氏)」という指摘がなされてきました。また、使わなくとも使用にまったく支障がないことから、THE VERGEは「存在を知らないユーザーもいる」とまで言い切ります。
2015年のスペシャルイベントで3D Touchが紹介された時には、フィル・シラー副社長が「とてつもなく画期的だ」と手放しで絶賛、わざわざデザイン部門を統括するジョナサン・アイヴ氏が動画で使用方法を紹介するという気合の入れようでした。
ところが、その割にAppleが普及に乗り気でないのは明らかで、iOS11でも「画面左端を押し込むことでアプリを切り替える」機能が、技術的制約を理由として利用不能のままとなっていました(iOS11.1で復活)。
iPhone XRにも似た機能はあるが
それでもiPhone XRには一応、3D Touchの替わりとなる「Haptic Touch」が搭載されています。ただし、3D Touchと同じ機能ですが仕組みは異なるようで、THE VERGEによると「長押し以上の何物でもない」とのこと。すでにAndroidスマートフォンで採用されているものと区別がつかないそうです。
これらのことを踏まえ、同メディアは「Appleは3D Touchからさっさと距離を置きたいように見える」と指摘しています。
Appleにしてみれば、一部のユーザーにしか使われない機能であり、なおかつ“廉価版”という位置づけのiPhone XRならば、思い切ってエンジンごと取り払った方がコスト面で得策ということなのでしょう。
「エンジニアの才能のとてつもない無駄遣いだ」
2015年にiPhone6sがリリースされた際、Appleの幹部たちがBloombergに対して、いかに3D Touchの開発に苦労したかを語ったことがあります。
ジョナサン・アイヴ氏が「究極的には、これこそ私たちがこれまでに集中してきたことであり、Appleを突き動かしてきたものだ」と述べれば、フィル・シラー氏も「もし、単なるデモ機能に終わり、1カ月後には誰も実際に使っていないのならば、これはエンジニアの才能の途轍もない無駄遣いだ」と強い口調で意気込みを語りました。
そんな彼らは今、最も売れるとされるiPhone XRに3D Touchの採用を見送ったばかりか、2019年の新iPhoneでは完全に廃止されるという観測まで出ていることについて、一体何を思うのでしょうか。
Source:THE VERGE,Daring Fireball
(kihachi)