マンガのビジネスモデルや著作権事情などを紹介するイベント「MANGAフェスティバル」が、東京・秋葉原で25日から28日まで開催された。27日には、著作権をテーマにしたセミナーが開かれ、文筆家の竹熊健太郎氏や角川書店代表取締役社長の井上伸一郎氏が著作権の保護期間について持論を述べたほか、IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏らが、コミックのネット配信の問題点などを説明した。
● 孫の代まで不労所得よりも、パブリックドメインで新たな創作物を
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竹熊健太郎氏
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角川書店代表取締役社長の井上伸一郎氏
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著作権の保護期間は著作者の死後50年とされ、その間は著作物を利用するには相続人全員の許可が必要となっている。死後50年を過ぎると著作物はパブリックドメインとなり、相続人の許可をとらずに著作物を利用できる。保護期間をめぐっては現在、文化審議会で著作者の死後50年から70年に延長することが議論されているほか、すでに70年に延長した米国が、日本に対して延長を要望している。
この問題について竹熊氏は、「(著作者の)孫の代まで不労所得を認めて文化の発展が阻害されるならばデメリットでしかない」と述べ、保護期間延長に反対の意を示した。「保護期間を延ばすことによって著作者の遺族が得る収入と、パブリックドメインによって生み出される新たな創作物の兼ね合いを考えると、保護期間は現状維持した方がメリットが大きい。俺には子供いないから(笑)」。
井上氏も「遺族の手前もあって言いにくい」としながら、著作権保護期間が切れた方が出版社としては収入増につながると語る。著作権が消滅した著作物を用いて新たな作品を創作することで、出版社としては新たな収益を見込めるという事情があるためだ。ただし、保護期間を維持すべきかどうかについては「別問題」と注釈を加えた。
● マンガのパロディは「経験則」で判断、著作権法違反の非親告罪化は「けしからん」
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弁護士の福井健策氏
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マンガにおける他作品のパロディに関しては、「締め切りがあるのでいちいち弁護士に相談することはなく、経験則で判断する」(竹熊氏)、「作家への愛情のあるパロディであれば許容範囲が増えるという肌感覚がある」(井上氏)など、現場では明確なルールが存在せずグレーゾーンになっているという。
「理論的には著作権侵害の可能性はあるが、著作権侵害は親告罪。著作権者が文句を言わない限り裁判にならない。業界内には“あうん”の呼吸があり、私も訴えられたことはないが、実際は薄氷の上を歩く感覚。良いか悪いかは別にして、ミッキーマウスやサザエさんでは訴訟も起きているのでパロディは避けようとなる。」(竹熊氏)
なお、著作権法違反については、告訴が必要とされる「親告罪」が採用されているが、文化審議会では現在、告訴を必要としない「非親告罪」とすることが可能か検討されている。この点について竹熊氏は、「ネットでは非親告罪化に反対する動きがあるが、自分も『けしからん』と思う」とコメント。現状では、業界のあうんの呼吸でパロディが許されているが、非親告罪とすることで「告発マニアが訴えたり、警察が勝手に動いて逮捕することになる」と問題点を指摘した。
モデレーターを務めた弁護士の福井健策氏は、日本の裁判所ではパロディを認める判例は出ていないと指摘する。パロディに関する裁判は過去2回行なわれているが、いずれも「元の作品の創作的表現を借りている」という理由で著作権侵害とされた。「パロディはグレーではなく、日本では駄目というのが裁判所の考え方」(福井氏)。ただし、現場ではあうんの呼吸で通じていることから、「現場を動かすルールに裁判所が耳を傾けることが必要かもしれない」との考えを示した。
● 電子コミックがユーザーニーズを満たせば海賊版流通が減る
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IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏
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小学館法務ライツ局ゼネラルマネージャーの大亀哲郎氏
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インプレスR&Dによれば、2005年度(2005年4月から2006年3月まで)の電子書籍市場は94億円で、このうち電子コミック市場は34億円に達する。福井氏によれば、近年ではコミック配信市場が急拡大しているという。
コミック配信市場が拡大した背景について、津田氏は次のように説明する。「配信会社によれば、ユーザーの年齢層は高いという。電車内で少年誌を読んだり、書店でアダルト系マンガを買いにくいという大人の需要があるのではないか。こうしたことから、現状ではリアルなマンガ市場とシェアを奪い合うわけでなく、ニーズを補完しあっていると言える」。
一方、コミック市場の問題点としては、インターネットにおけるマンガの海賊版流通が挙げられる。津田氏によれば、現在は主に発売直後の週刊のコミック誌が「Winny」などのファイル交換ソフトを通じて出回ることが多い。ただし、営利目的によるネット流通では、人気コミックを無断配信していたサイト「464.jp」のほかには見られないという。464.jpは、井上雄彦や永井豪、本宮ひろ志など人気作家11人の41作品を無断で公開したとして、東京地裁が2007年9月に合計約2,000万円の損害賠償を命じている。
小学館法務ライツ局ゼネラルマネージャーの大亀哲郎氏は、「464.jpを見て、ネット上でマンガを読める仕組みを早期に正規ビジネスとして提供する必要性を感じた」という。そこで、小学館のほか集英社や角川書店などの出版社では「デジタルコミック協議会」を設立、電子コミックの配信方法や著作権保護について話し合う場を用意した。福井氏も「正規ビジネスがニーズを満たせば余計な海賊版も減る」と指摘し、電子コミックのラインナップを拡充すべきだとした。
なお、コミック配信を展開するにあたっては、歌詞の使用に関する問題が挙げられるという。大亀氏によれば、携帯電話向けのコミック配信では、1節でも歌詞が掲載されていれば、使用料として日本音楽著作権協会(JASRAC)に配信価格の6.2%を支払っている。ただし、この数値は、携帯電話向けコミック配信に関する使用料率が定まっていないためで、現在JASRACとルールを交渉しているという。この点について津田氏は、「音楽配信でも使用料率は7.7%。電子コミックを歌詞目当てで購入する人は少ないことを考えると、6.2%という数字はものすごくおかしい」と指摘し、大亀氏にねばり強い交渉を求めた。
関連情報
■URL
MANGAフェスティバル
http://www.entama.com/mangaf/data.html
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( 増田 覚 )
2007/10/29 12:19
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