DTM(デスクトップミュージック:パソコンを使って行う音楽制作)を始める場合に必要になる機材は何ですか?と楽器店のスタッフに質問すると、おそらく次のような答えが笑顔で返ってくると思います。
- パソコン本体
- DTMソフト+(ソフト)シンセなど
- オーディオ・インターフェース(インターフェイス)
- MIDIキーボード
- スピーカー(またはヘッドホン)
【関連記事】入門者向け情報特集
パソコン、ソフト、キーボード、スピーカーは馴染みのある言葉ですが、この中で唯一謎なのが「オーディオ・インターフェース」ではないでしょうか?というわけでこの耳慣れない単語オーディオ・インターフェースとは何か?そしてなぜ必要か?また、オーディオインターフェースを調べる上で出てくる用語をご紹介してみたいと思います。
オーディオ・インターフェースとは何でしょう?
「オーディオ=音」というのはまあOKとして問題は「インターフェース」ですね?直訳すると「接点」「境界面」といった意味になりますが、DTMの世界では主に
「コンピュータと周辺機器(マイクや楽器など)を接続する機器」
といった意味で使われます。つまり「オーディオ・インターフェース」は
- マイクやギター、シンセなどの音をパソコンに取り込む(A/D)
- 取り込んだ音を再生する(D/A)
際に必要な機器ということになります。
よくあるセッティング例
オーディオ・インターフェースが必要となる理由
オーディオ・インターフェースが必要な理由には主に以下の3つがあります。
- 音質の改善
- 遅れ(レイテンシー)の改善
- 入出力数を増やす
1)音質の改善
入力時
ギターやマイクの音をオーディオ・インターフェースなしでパソコンに取り込む際、マイクやギターのケーブル端子とパソコン側の入力とは形状が合いませんが、仮に変換アダプター等を使用して接続できたとしても、問題になるのが「雑音(ノイズ)」です。
パソコンに搭載されているマイク端子やヘッドホン出力端子と言うのは「会話レベルの録音ができて、簡易再生ができればOK」という最低限の機能を果たしているのが大部分。つまりSKYPE等のテレビ電話等を使用する場合のように「会話ができる程度の音質」で良いならオーディオ・インターフェースは必要ありません。
PCについているヘッドホンや入力端子の例
しかし、音にこだわるDTMの場合は、これではほとんど使い物にならないのです。パソコン本体から発する「ジー」「ザー」といったノイズが混入したり、後述する音の遅延によりDTMでの音の扱いは、オーディオ・インターフェースの有無で全く次元が異なるものになってしまうのです。
出力時
DTMソフトだけでなく、iTunesやCDの音をパソコンから出力する場合も、ノイズに悩ませられたり、音質の劣化といった問題が生じます。これは「デジタル信号を音としてアナログ信号に変換する」機能の品質精度・性能がパソコンとオーディオ・インターフェースでは全く異なるからです。「餅は餅屋」という言葉がありますが、まさにこのことですね。
2)遅れ(レイテンシー)
ギターやマイクの音をパソコンに取り込む過程では、音そのものである「アナログ信号」をパソコンで扱うことの出来る「デジタル信号」に変換しています。
【関連記事】
DTMソフトでは、ソフトシンセ(楽器)や(エコーなどの)プラグイン・エフェクトを使って音楽を作り、ボーカルをミックスするといった編集を行うことができます。こうした録音、編集、シンセの演奏といった一連の過程のウラでは、CPUを筆頭としてパソコン全体がデジタル処理という「仕事」を行っているのですが・・・しかし人間同様、仕事量には限度というものがあります。
でこの限度を超えた時、何が起きるか?というと
- 音が遅れる・・たとえばMIDI鍵盤を弾いてシンセが鳴るまでに時間差が生じる⇒演奏できない
- 音が歪む・・音楽を再生するとバリバリといったノイズが出る
- パソコンが止まる(フリーズ、ドロップアウトする)・・・
等々・・楽しくないことばかりです。しかし、こんなときオーディオ・インターフェースがあれば、音処理に対する作業は専門家のオーディオ・インターフェースがやってくれます。これでパソコンの負荷は軽減され症状はかなり緩和されることになるでしょう。
この様にオーディオ・インターフェースを使用することで劇的にパソコン上の音楽制作は快適になるのです。
3)入出力数
入力数
これは比較的理解しやすいでしょう。まずは同時にいくつの入力が必要か?ということ。マイク1本だけしか使わないのであれば、オーディオ・インターフェースの入力は1つで良いですね。この時マイク入力端子がフォーンタイプの他XLRタイプ(写真下左部分)に対応していると音質面では有利になります。
このように通常、ギターやマイクをオーディオ・インターフェースに接続する場合はマイク、XLR、LINE、Hi-Zなどの「アナログ端子」を使用します。
アナログ入力端子の例
またボーカル録音に使われるコンデンサマイクを使用する際は「ファンタム電源」を供給できるオーディオ・インターフェースを使用することが必要です。多くは本体に「+48V」というスイッチがついていると思います。
もしドラムの録音のように数本のマイクを使用して音を収録する場合は、当然マイク入力数が1,2個では足りません。こうした複数チャンネル入力に対応したオーディオ・インターフェースが必要になります。
仮にアナログ出力しかないシンセサイザーを音楽制作で使用するケースでは、オーディオ・インターフェースの入力が2つしか無い場合、録音する機種を変更するたびに毎回ケーブルをつなぎ変えなくてはなりません。しかしもし入力が8の場合、シンセ4台(それぞれステレオ出力)をすべてオーディオ・インターフェースにつないでおき、ソフト側で録音するものをその都度選択することができるので非常に効率的です。USB Audio/MIDIに対応のシンセであれば、USBケーブル経由で音をDAWに取り込むことができるので、その場合はアナログ入力を使用しなくてすみます。このあたりも自分の環境で計算してチョイスしたほうがよさそうですね。
出力数
ボーカルやギターを自宅で手軽に録音して、2本のスピーカーから音を出すといった用途では、2IN(入力)2OUT(出力)でも問題ないかもしれません。しかしライブなどでDAWソフト(MIDI/オーディオを扱い、音楽を制作することのできるDTMソフトウエア)を再生して、キック、スネア、ベース、キーボード等の複数トラックの楽器音を出力し、ミキサーでそれぞれのバランスをコントロールするといった場合(ライブなど)では、2つでは足りないので多チャンネル出力のモデルが必要になるでしょう。
2OUT(ステレオ出力)でも、DAW側で調整すればできるのでは?と思う方もいらっしゃると思いますが、たしかに音楽ジャンルによっては小規模のライブでも可能かもしれません。しかしある程度の大きさのライブになれば、PAシステムが導入されており、現場でPCだけでキック、スネア、ベース、その他のEQやバランスをとって、PAに2CHで送るというのは現実的ではありません(ボーカルが加わったらなおさらですね)。PA側でベースだけ上げるとか、キックの音質を変えるということがまったくできなくなるからです。
出力数はこのほかにも、スピーカーを複数使うサラウンド再生やイマーシブ系の音楽作成等にも重要になります。ドルビー5.1chの音楽制作であれば、6つのスピーカーを使用するので最低6つの出力が必要になります。
Steinbergの「IXO12」は「アナログ2入力(in) – アナログ2出力(out)」:ボーカルやギターを自宅で手軽に録音して、2本のスピーカーから音を出すといった最低限の音楽制作環境を作ることができます。
ArturiaのAUDIO FUSEは、「32IN-28OUT(ADATデジタル入出力を含む)」:多くの楽器を接続したり、複数のスピーカーを使う場合などに便利ですね。
極端な例
デジタル入出力
オーディオ・インターフェースには、アナログ入出力端子の他にもADAT(エーダット)、MADI(マディ)、Dante(ダンテ)などのデジタルインターフェースの規格があり、専用ケーブルを使用して多くの信号をやり取りすることができます。
ADAT:光ケーブル使用
Dante:LANケーブル使用:最大512ch
たとえばADATの場合は光ケーブルを介して、24bit/48kHzの信号を8チャンネル伝送できますので、ADAT対応のミキサーと接続すれば光ケーブル1本で8チャンネルの入力が可能になります。次に紹介するArturiaのAUDIO FUSEの場合、ADAT端子が2系統搭載されていますので、48kHzの設定であれば:8ch×2系統=16in-16outを拡張して利用することができます。一般的にデジタル入出力搭載のモデルは非搭載よりも高額になる傾向があります。
つづいてオーディオ・インターフェースをメーカーサイトなどで調べるときに、よく出てくる専門用語を紹介します。
オーディオ・インターフェースで使われる用語
◯◯bit / ◯◯kHz
オーディオ・インターフェース製品の仕様で
といった表記をご覧になったことがあると思います。これは「量子化ビット数」と「サンプリング・レート」というものを表す数字で、それぞれの数値が大きいほど高音質で録音・再生できると考えてください。したがって製品のパッケージ等に「24-bit/192kHz対応」のような表記がされている場合は、
-「量子化ビット数」は24-bit
-「サンプリング・レート」は192kHzまで選択可能(44.1、48、96、192のいずれかを設定できるといったタイプが多いです)
ということを意味しています。
※量子化ビット数とサンプリング・レートについては下記記事を参照ください。
「量子化ビット数」と「サンプリング・レート」の数字が大きければより良い音で録音、再生ができるのですが、その分パソコンへの負担も大きくなります。その場合
- パソコンに負荷がかかる⇒処理が遅い、クラッシュ(フリーズ:固まる)する、音が歪む
- データ量が膨大になる⇒曲の管理が大変、ハードディスクの容量が足りなくなる
といったことも起きてしまう場合があります。
なお各種設定は、パソコンのOSの設定や、DAWソフトを使用する場合は各DAWソフト側で設定します。下図はCubase13での設定例(プロジェクト設定で行います)
「量子化ビット数」ですが、最近は安価なものでも192kHz対応モデルも発売されています。24bit以上対応モデルを選んでおけばまず問題無いでしょう。初心者、入門者の方であれば「サンプリング・レート」に関しては48、96kHz対応であれば問題ないと思います。
インターフェース
接続方式(インターフェース)は、オーディオ・インターフェースとパソコンなどのデバイスを接続する端子の種類で、主に下記の2種類があります。
- USB(ユーエスビー)
- Thunderbolt(サンダーボルト)
オーディオインターフェースの接続方法で知っておくべきは、コネクタの形状とデータ伝送プロトコルです。
コネクタの形状
USB には、端子の大きさが異なる「USB」「Mini」「Micro」の3つの分類があり、その中にさまざまなコネクタ形状の種類があります。
Thunderbolt のコネクタ形状は「Mini DisplayPort」(Thunderbolt)「USB Type-C」の2種類です。
主に(パソコン用の)オーディオインターフェースで採用しているコネクタの形状は「USB Type-B」「USB Type-C」「Thunderbolt」(Mini DisplayPort)です。
画像(メス側・差込口) | 名称 |
USB Type-B | |
USB Type-C | |
Mini DisplayPort |
上記に接続するためにパソコン側で必要なコネクタ形状は主に「USB Type-A」「USB Type-C」「Thunderbolt」(Mini DisplayPort)となります。
画像(メス側・差込口) | 名称 |
USB Type-A | |
USB Type-C | |
Thunderbolt |
データ伝送プロトコル・伝送速度の規格
USB には、フルスピード USB 1.1 、ハイスピード USB 2.0 、スーパースピード USB 3.0 など伝送速度が異なる規格があります。
Thunderboltには、type1、2、3など伝送速度が異なる規格があります。
この規格は、ハードウェア(オーディオインターフェースとパソコン)同士が共通のプロトコル(通信規約)である必要があるため、オーディオインターフェースがUSB 3.0を使用条件としている場合、パソコンにUSB 3.0が搭載されている必要があります。
ただし、USB 3.0 は USB 2.0 と互換性があるため、オーディオインターフェースがUSB 2.0を使用条件としている場合、パソコンに USB 3.0 が搭載されていれば使用できる場合があります。(※すべての USB 3.0 端子が USB 2.0 完全互換があるわけではありません。USB2.0 完全互換かどうかはパソコンメーカーにご確認ください。)
注意することとして、たとえば、「USB-C」コネクタは USB 3.1 や USB 2.0 、Thunderboltなどのプロトコルが用いられています。見た目ではどれをサポートしているか判断つきにくいため必ず仕様を確認する必要があります。これは Mini DisplayPortを採用しているThunderbolt 1~2、USB Type-Aを採用しているUSB 1.1 ~ USB 3.0も同じことがいえます。
コネクタ形状は外見でデータ伝送プロトコルはその中身と理解するのがわかりやすいですね。
コネクタの形状の中には 各プロトコル と互換性のあるポートを識別するために、ロゴが印字されているものもあります。パソコンと対応する機種を必ず確認しておきましょう。また、ケーブルも同じように接続するハードウェアのコネクタ形状、プロトコルに対応している必要があります。
【関連記事】
USBクラスコンプライアント
オーディオインターフェースをパソコンなどのデバイスで使用するにはドライバーが必ず必要になります。パソコン(デバイス内のOS)に標準搭載されているドライバーで動作できるように対応させたのがUSBクラスコンプライアント対応になります。よって専用デバイスのドライバをインストールしなくても使用することができます。(なお、ドライバーを自動的に探し必要に応じてダウンロードやインストールするプラグアンドプレイというのもあります。)
USBクラスコンプライアント対応となっていても、どのデバイスで対応しているかは、製品ごとに異なります。たとえば、Mac のみUSBクラスコンプライアント対応で Windows には専用ドライバーが必要になるものなどもあります。また、OS標準ドライバーにもバージョン(規格)があり、こちらもどの規格に対応しているかは製品ごとに異なります。
専用ドライバーとOS標準ドライバーはそれぞれメリットとデメリットがあります。専用ドライバーのメリットはオーディオインターフェース本来の性能を発揮できるように構成されている点です。一方のOS標準ドライバーのメリットは前述したとおりインストール不要で手間が掛からないという点です。ドライバーインストールがしにくいiOS機器などのスマートデバイスなどに適応できる点もポイントですね。
オーディオインターフェースによっては専用ドライバーを持ちながらもUSBクラスコンプライアントに対応するクラス・コンプライアント・モード(CCモード)と呼ばれる機能もあります。これは、たとえばパソコンでは専用ドライバー、タブレットやスマートデバイスではCCモードと切り替えることができます。
おすすめ機種紹介
それではおすすめのオーディオ・インターフェースをご紹介してみたいと思います。(価格順)
Steinberg IXO シリーズ
低価格帯ながら音楽制作や配信にも使用できるポータブルなSteinbergの新作オーディオ・インターフェース
Universal Audio / Volt
最大 24bit/192kHz に対応し、コンデンサーマイクによるボーカル録音、ギターやベースなどの録音が可能です。MIDI端子も搭載されているためお持ちのキーボードや音源モジュールなどを接続することができます。Mac、PC、iPad、iPhoneに対応し、ボーカルやギターを豊かなサウンドで録音できるビンテージ・マイク・プリアンプ・モードも搭載しています。
Roland / Rubix22
最大 24bit/192kHz に対応。MIDI端子も搭載されているためお持ちのキーボードや音源モジュールなどを接続することができます。グランド・ループによるノイズを回避することができるグランド・リフト機能も搭載。
Roland Rubix24
初めてオーディオインターフェースを購入する方にも人気の高い2万円台モデルです。
大人気となった「QUAD-CAPTURE UA-55」の後継機モデルです。
マイクや楽器の音を聞きやすくするコンプレッサー/リミッターやループバックを搭載しているなど「Rubix22」にはない機能があります。また、4チャンネル出力とヘッドホンの出力切り替え機能を装備していて録音やバンドの同期演奏などにも便利です。
Native Instruments KOMPLETE AUDIO 6 MK2
4つのアナログ入出力と2×デジタル入出力、2つのヘッドフォン出力とMIDI入出力を装備したとてもコストパフォーマンスが高い製品です。
Focusrite Scarlett Gen4シリーズ
真っ赤な筐体でおなじみFocusrite ( フォーカスライト )の第四世代のScarlettオーディオ・インターフェース・シリーズ「Scarlett Solo / 2i2 / 4i4 」
Apogee BOOM
高価格オーディオ・インターフェースでおなじみのApogee社がリリースした、低価格帯ながら作曲、録音、映像編集、ライブ配信に使えるDSP FX内蔵の高品位オーディオ・インターフェースです。
MOTU
プロも御用達でおなじみアメリカのMOTU(Mark of the Unicorn)社のコンパクトな高品位USB-Cオーディオ・インターフェース「M2」と「M4」
こちらはM6
どうせ買うなら最初から本格派・・という方におすすめの各モデル
Solid State Logic ( ソリッドステートロジック )の12イン/8アウトのオーディオ・インターフェース「SSL 12」
Universal Audio Apollo Solo / Apollo Solo USB | Unisonマイクプリ搭載のデスクトップタイプ・オーディオインターフェース
Universal Audio Apollo Twin X | Apollo Twinの第3世代モデル
MOTU 第五世代 828 | すべてが刷新された28 x 32 入出力、ミキシンク&エフェクト搭載のUSB3 オーディオ・インターフェース
マイクで有名なNEUMANN ( ノイマン )のタッチスクリーン・コントロールを備えたプレミアムオーディオ・インターフェース「MT 48 U」
とうわけでDTMや配信には必携とも言えるオーディオ・インターフェースですが、自分の環境に最適なものを選んで快適な音楽制作を楽しんでください!それではまた。
島村楽器オンラインストア インターフェース一覧はこちら
この記事を書いた人
デジランド・デジタル・アドバイザー 坂上 暢(サカウエ ミツル)
学生時代よりTV、ラジオ等のCM音楽制作に携り、音楽専門学校講師、キーボードマガジンやDTMマガジン等、音楽雑誌の連載記事の執筆、著作等を行う。
その後も企業Web音楽コンテンツ制作、音楽プロデュース、楽器メーカーのシンセ内蔵デモ曲(Roland JUNO-Di,JUNO-Gi,Sonic Cell,JUNO-STAGE 等々その他多数)、音色作成、デモンストレーション、セミナー等を手がける。