きのうの言論アリーナは、IPCCの5次報告書の執筆者である江守正多氏をゲストに迎えて、その内容と日本の対応を考えた。守秘義務があってくわしい内容は話せないが、図のように第4次報告書に比べると地球温暖化は過去の予想の下限に近いとの予測らしい。ただ原因が人間の排出する温室効果ガスであることは「確実性が高い」そうだ。

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もう忘れている人も多いと思うが、日本は2009年に鳩山首相が国連の気候変動サミットで、温室効果ガスを1990年比で25%削減するという国際公約を行ない、そのために菅政権で原子力の構成比を50%にするエネルギー基本計画を立て、どちらもいまだに有効である。さすがに25%削減は安倍首相も撤回する意向を示し、エネルギー基本計画は民主党政権が「原発ゼロ」に変更しようとしたが、経産省が反対してそのままだ。

そろそろ状況も落ち着いてきたので、この基本計画を見直すときだろう。潮田道夫氏は「温暖化対策を考えると、現状維持でもいいのではないか」といい、財界にもこういう意見は多い。CO2を減らすには、普通は炭素税などで経済活動を抑制するしかないのだが、火力を原子力に転換することは成長率に与える影響が少ないからだ。

しかし私は、この選択肢は今の日本では無理だと思う。福島事故の処理がひどすぎたので、国民が原子力に恐怖をいだき、電力業界が政府に不信感をもって、原発の新設計画が凍結されたからだ。国策で推進してきた原子力が事故を起こしたら、すべて東電の責任にして逃げ、思いつきで原発を止めた菅直人氏の罪は重い。世界的にみても、軽水炉は天然ガスに比べて経済性に劣り、新設計画のキャンセルが相次いでいる。

ただし日本の場合は天然ガスはそれほど安くなく、自給もできない。それに気候変動についての新たな枠組ができた場合には、すべての産業に炭素税をかけるより原発を増やすほうが政治的な抵抗も少ないだろう。この場合は軽水炉ではなく、IFRなどの「原子力2.0」が有力候補になる。

気候変動のリスクも原子力のリスクもゼロではないし、ゼロにする必要もない。どのようなリスクレベルで国際的な合意が得られ、快適な生活が送れるのか、という全体設計をまず考え、そこからエネルギー政策も考えるべきだ。11月には海外からもスピーカーを迎え、こうした地球の持続可能性をめぐって国際会議を行なう予定である。