日常生活のなかで、イライラしたり、ムカッとくることはあるもの。そんなときは「怒らないようにしょう」と考えたりもしますが、感情を否定して無理矢理ポジティブになろうとしても無理が生じて当然です。そこで、怒りに巻き込まれなくなる方法、怒りを受け流す方法として「マインドフルネス」を紹介したいと主張するのは、『マインドフルネス 怒りが消える瞑想法』(吉田昌生著、青春出版社)の著者。
「マインドフルネス」とは「気づき」、「自覚」、「無意識の意識化」のこと。
ふだんの私たちは、無意識のうちに思考し、無意識のうちに湧いてきた感情に反応しています。この無意識の自動操縦状態のことを「マインドレスネスな状態」と言います。
この状態のとき、私たちは反応的になります。本当は怒りたくないのに怒ってしまったり、イライラするようなことを、くり返し考え続けたりしがちになります。
反対に、自分の怒りにリアルタイムに気づいて、自覚できていれば、激しい怒りに巻き込まれないですみます。反射的に荒々しい言動をとるのではなく、言葉や行動を意識的に選択することができるのです。
この「気づき」を養うための脳と心のトレーニングが、本書でご紹介する「マインドフルネス瞑想」です。(「はじめに」より)
マインドフルネスはグーグルやインテル、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどの有名企業が社員教育に取り入れていることで知られていますが、それは瞑想の効果が科学的に検証されるようになったから。瞑想を実践することで集中力が高まり、感情調整能力(EQ)が向上し、チームワークもよくなることが研究結果から裏づけられているのだそうです。またマインドフルネス瞑想を続けることで、脳内の恐れを感じる扁桃体が小さくなり、恐れや不安、イライラを感じにくい脳の構造に変わっていくのだとか。
そんなマインドフルネスを実践するための方法を説いた本書から、きょうはChapter 3「自分も他人も受け容れられるマインドフルネス瞑想の実践」に焦点を当ててみたいと思います。
いつでもどこでもできる「気づき」のトレーニング
怒っている自分を認める、「…すべき」を緩める、違いを認める、視点を変える、「うらやましい」という感情を認める、あるいは意識して怒るなど、すべての根底にあるのは「気づく」ということ。そして「気づく」ことで、怒りを手放すことができるようになるのだと著者はいいます。逆に、自分が怒っていることにリアルタイムに気づかなければ、呼吸も、行動も、考え方も変えることはできないそうです。
「いま自分は怒っているのか? 怒っていないのか?」「もし怒りがあるのなら、それはどれくらいの強さなのか?」「自分がいまなにを感じているのか」などを自覚できていればいるほど、感情をコントロールしやすくなるということ。
そこで、気づく力を高める「マインドフルネス瞑想」が意味を持つというわけです。マインドフルネス瞑想の目的は、「気づく力(アウェアネス)」を養うこと。瞬間、瞬間に意識を向けながら、体の感覚や音、心の働きといった、ふだんは見過ごしがちなさまざまなことに意識の光を当てていき、気づく力を養うことだというのです。
瞑想は、これ以上ないほど“超シンプル”です。いつでもどこでもできます。ジョギングのように着替える必要もなければ、時間も場所も問いません。
「今、ここ」の呼吸の感覚に意識を集中させると、心がニュートラルな状態にリセットされます。
続けることで「気づく力」が高まり、怒りをはじめとした感情や感覚に振り回されない安定した自分を育てることができます。(143ページより)
つまり著者によれば、マインドフルネス瞑想とは、いつでもどこでもできる脳と心のトレーニングだということになります。(142ページより)
3分間、瞑想してみよう
著者が紹介している瞑想の方法は、いたってシンプル。なにしろ、リラックスして座り、姿勢を正して、次の2つを繰り返すだけだというのですから。
・自分の呼吸に注意を向ける
・呼吸から注意がそれたことに気づいたら、注意を呼吸に戻す
(144ページより)
そして、ストップウォッチを3分にセット。あとは繰り返される呼吸に、すべての注意を向けて観察していくだけだというのです。
呼吸に注意を向けようと思っても、いつの間にか、なにかを考えていることに気づくかもしれません。しかし、心配は不要。雑念が湧いてまったく集中できないというのは、最初に誰もが通る通過儀礼だというのです。つまり、それでも繰り返し続ければやがて集中力が高まり、次第に雑念を手放しやすくなるということ。まずはマインドフルネス瞑想がどんなものなのか、なんとなく理解するだけでかまわないのだといいます。(144ページより)
心が整う姿勢のつくり方
瞑想に適した姿勢を簡潔に表現するなら、「安定」して「快適」な姿勢で座ることなのだそうです。心、呼吸、体はつながっているので、不自然な姿勢では心もなかなか落ち着かず、瞑想を長く続けることも困難。瞑想は立った状態でも座った状態でも寝た状態でも行えるものの、安定して快適な姿勢をとることが大切だというのです。
なお、その際に重要なポイントが2つあるといいます。まずひとつは、「背骨を気持ちよく伸ばす」こと。椅子に座って行う場合は、背もたれに寄りかからず、骨盤を軽く起こすように座り、まずは骨盤を安定させる。そして安定した骨盤から、気持ちよく背筋を伸ばすことが大切だというのです。
イメージとしては、頭のてっぺんから出ているヒモを誰かに引っ張り上げられているような感じ。あるいは、身長計をぐっと押し上げるような感覚です。座っていても立っていても、背骨と背骨の間にわずかなすき間が空くようにまっすぐに伸ばします。(147ページより)
背骨はエネルギーの通り道なので、詰まりのないすっきりとした状態をつくれば、気持ちもすっきりするということです。
そしてもうひとつのポイントは、「余計な緊張を緩める」こと。息をふーっと吐きながら、首や肩の余分な力、肘や指先の力を抜いていく。そして胸を気持ちよく開き、わずかに微笑むように顔まわりの力も抜いていく。表面の筋肉が緩むと、リラックスして頭のなかも静かになっていくそうです。(146ページより)
理想は「上半身はリラックス、下半身は安定」
東洋には、理想的な体の状態を表した「上虚下実(じょうきょかじつ)」という言葉があるそうです。上半身はリラックスして力が抜けていて、下半身は力が集まっている状態。この状態がもっともバランスがよく、気の流れもスムーズになり、瞑想にも適しているというのです。なお上虚下実の状態に整えるためには、次の3点を意識すべきだといいます。
1.骨盤を安定させる
背筋を伸ばすにも、心を安定させるにも、骨盤の安定感がとても重要。「腰が抜ける」という言葉があるように、驚きや恐怖で心が不安定になると、腰に力が入らなくなるわけです。
具体的には、左右の座骨に体重を均等に乗せ、下腹と骨盤まわりの筋肉を意識して骨盤を安定させることが大切。腰がしっかりと大地に沈み込んでいくようなイメージだそうです。
2.丹田(たんでん)を充実させる
丹田とは「気が集まる」とされている場所で、おへそから指4本分ほど下、下腹の奥にあるそうです。私たちがやる気に満ちているときには、自然と、おへそが内側に引き寄せられるように腹圧がかかり、腰が上に伸びているもの。逆に丹田を充実させることで、やる気に満ちた状態を再現することができるというのです。
3.首の力を抜く
首は急所なので、怒りやストレスを感じると、つい首に力が入ってしまうそうです。しかし首の余分な力を抜いて上半身をリラックスさせると、心も緩んでいくことに。(148ページより)
著者自身も、もともとは怒りっぽい性格で、怒りが態度にも現れやすかったのだそうです。しかしマインドフルネスを実践した結果、感情的になることもなくなり、どんな物事にも冷静に対処できるようになったのだとか。本書の内容を実践すれば、同じように落ち着いた精神状態を身につけることができるかもしれません。
(印南敦史)