「日本のビジネスパーソンは学ぶ習慣をもたない」を問題とするかどうか
国際的には勤勉なイメージをもたれている日本人だが、実際に国際比較すると「社会人になったとたん学ばない国民と化す日本人」と指摘するのは小林祐児氏(パーソル総合研究所)。著書「リスキリングは経営課題」では、まえがきから
日本のビジネスパーソンは、世界的に見ても圧倒的に学びの習慣がありません。
と記し、第2章ではこの点を掘り下げて、日本人の「中動態的」キャリア論を展開する。
昨今の「ジョブ型人事」「リスキリング」を取り上げたメディア記事に触れるたびに、論の底浅さを覚える自分自身を訝しむようになり、最近は努めて、こうして自分の眉間に皺がよる理由は何なのだ?と内省するようにしていたのだけど、上述のことが背景の一つにあるのかもなと再読して思い当たった。
18カ国・地域の主要都市で働く20~69歳の就業者(男女)を対象に、パーソル総合研究所が行った「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」で、職場以外での具体的な学習や自己啓発活動について聴取したところ、日本は圧倒的に「何もやっていない」回答率が高かった。世界平均18.0%のところ、日本は52.6%、ダントツ1位である。
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この問いは、別に「何かやっていますか?」「とくに、これといってやっていません」みたいなやりとりで導き出した割合ではなく、具体的な学習行動を選択肢として並べ、選択肢11項目の最後に「とくに何も行っていない」を含めたところ、それに回答をつけた人が、ずば抜けて多かったという結果だ。
具体的な選択肢は、次の通り。()内は、18カ国・地域中の日本の順位を入れた。
読書(17位)
研修・セミナー、勉強会等への参加(18位)
資格取得のための学習(14位)
通信教育、eラーニング(18位)
語学学習(18位)
副業・兼業(18位)
NPOやボランティア等の社会活動への参加(18位)
勉強会等の主催・運営(18位)
大学・大学院・専門学校(18位)
その他(18位)
とくに何も行っていない(1位)
順位でみてみると、1つ目の「読書」は僅差でスウェーデンを上回って17位、3つ目の「資格取得のための学習」は下から5番目の14位なのだが、あと全部が最下位。こうやって見ていると、圧巻というか、あっぱれという感じがしてくる。
ここまでの特異性をもっているって前提に立つと、これを問題として取り扱うべきなのかなって気がわいてくるのだ。問題として解決しようとするのってなんか無理筋というか悪手というかセンスがないというか。
この特異性を別の見方をもって活かせないものだろうかと。これは「解決すべき問題」として扱うより、「変えられない環境条件」と位置づけた上で戦略を練ったほうが奏功するんじゃないかと。
そんなことを思う背景にはもう少しいろいろあって、先の「中動態キャリア論」的な文脈も敷いて丁寧に言及すべきことではあるし。また、もちろん、そのままでいいと全面肯定する話でもなく、「これは問題だ」として「策を講じる」素直な流れもあって当然とも思っている。
のだけど、その辺いったんすっ飛ばして、そんなこんなを背景にして私は、昨今の「社員のキャリア自律を促進してですな」とか「キャリア研修を充実させてですな」的なのを、表層的で、実効性なさそうで、あんまり筋良くなさそうだなぁという思いもたげていたのかなぁと思った次第。
ここまでの圧倒的な特異性をひっくり返すのって、そう簡単ではない気がするし。少なくとも、この特異性も踏まえて問題の特定、課題の設定をして策を練るべきだし。できることなら、この特性をうまく別の解釈もちこんで、活かす方向に戦略を練れたら良さそうだなぁと。具体的な案件で現場で何か活かせる機会が到来したあかつきには、この辺も織り込みながら底深く練れるように引き続き揉みほぐしを続けたいところである。だいぶ雑な文章になってしまったが、詳しくは下の調査レポートや新書などで…。
*パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」
*小林祐児「リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考」(光文社)
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