会社を設立する場合、取締役や監査役の任期をどのくらいにするかについては悩むところであり、我々もご相談を受けることがあります。
任期満了時には、改めて株主総会で役員を選任し、これを反映した登記をしなければなりませんので、その手間を減らすため、任期は長く設定しておきたいというのが本音としてはあるかと思います。ただ、任期中に取締役を交代させたいような場合には、辞任させるあるいは解任をするという手続をとる必要があるため、あまり任期を長く設定すると、任期中に取締役の交代をするのが面倒になります。
今回は、会社が定めることができる取締役・監査役の任期について解説をするとともに、任期を定めるに当たって検討すべき要素についても触れたいと思います。ぜひ参考にしてください。なお、以下では、上場会社等ではない、取締役会を置いた一般的な形態の株式会社を主に想定して検討をしていきます。
Contents
1、取締役・監査役ともに任期は最長10年
1-1 取締役の任期
取締役の任期に関して、会社法332条1項及び2項は次のように定めています。
会社法332条1項 取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
会社法332条2項 前項の規定は、公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)において、定款によって、同項の任期を選任後十年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。
すなわち、会社法332条1項によると、定款又は株主総会の決議で特に定めない限り、取締役の任期は自動的に2年となります。
任期が2年というのは、例えば、2018年6月の定時株主総会で、取締役を選任した場合、2020年6月の定時株主総会のときに、任期が満了するということになります。
上場会社においては、取締役が株主から毎年の信任を受けることが望ましいとの考えから、定款において、任期を1年に短縮していることが一般的ですが、会社法上は、定款等で特に定めない限り、取締役の任期は2年とされている点をまず押さえてください。
もっとも、会社法332条2項は、「公開会社ではない株式会社」の場合は、定款において取締役の任期を10年とすることが可能としています。「公開会社ではない株式会社」とは、株主がその会社の株式を譲渡する場合に、取締役会の承認等が必要と定款で定められている会社(閉鎖会社)を指しますが、上場会社でなければ、「公開会社ではない株式会社」であることが一般的です。
したがって、一般的な株式会社においては、取締役の任期は原則として2年、ただし、定款により、これを短縮することもできるし、10年まで延長することもできるということになります。
1-2 監査役の任期
他方、監査役の場合、原則として4年、ただし、定款により、これを10年まで延長することができるということになっています(会社法336条1項及び2項)。
取締役と異なる点は、次の点です。
- 取締役の場合、任期は原則として2年であるが、これを短縮できるのに対して、監査役の場合は4年未満に短縮することができない。
会社法336条1項監査役の任期は、選任後四年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。
会社法336条2項前項の規定は、公開会社でない株式会社において、定款によって、同項の任期を選任後十年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。
1-3 取締役と監査役の任期まとめ
取締役と監査役の任期についてまとめると、下表のとおりとなります。
原則 | 定款で任期短縮は可能か | 定款で任期を伸長する場合の最長期間 | |
取締役 | 2年 | 〇 | 10年 |
監査役 | 4年 | × | 10年 |
2、任期設定のポイント
2-1 任期を長くすること、短くすること、それぞれのメリット・デメリット
定款で任期を伸長することによるメリット・デメリットは、次のとおりです。
- 任期満了後は、株主総会で改めて役員の選任をし、就任の登記をする必要があるが、任期を長く設定しておけば、それだけ、手続きの手間と登記のコスト(1万円~3万円の登録免許税や司法書士に依頼する場合の費用)を減らすことができる。
- 任期途中で交代させたいときに、当該役員が辞任をしない場合には、解任をすることになるが、正当な理由がない限り、解任をすれば、本来の任期までの報酬を支払わなければならいため、役員の入れ替えが困難になる。
定款で任期を短縮することによるメリット・デメリットは、この逆で、手続きの手間と登記のコストがかさむというデメリットがある一方、任期満了を待ち、役員の入れ替えを行うことが比較的容易であるというメリットがあります。
2-2 結局のところ、任期は何年にするのがよいのか?
2年(取締役)・4年(監査役)という原則的な任期を変更すべきか、変更するとして短縮すべきか(取締役のみ)、伸ばすべきかという点は、会社の状況ごとに異なるというほかありません。
しかし、あなたがすべての株式を保有しており、役員があなたや信頼できる友人・親族のみという場合でない限り、基本的には、法定の任期(取締役は2年、監査役は4年)のままとしするか、延長するとしても、4年程度としておくことが望ましいと考えます。実際に、我々がご相談を受けてきた会社においても、取締役の任期は2年、監査役は4年としている場合が圧倒的に多いように思います。
その理由は、やはり、役員間での対立が生じ、どうしても役員の入れ替えが必要になる可能性があるからです。任期満了であれば、当該取締役は、再任されない限り、退任する以外に選択肢がありません。つまり、交代させたければ、再任をしなければよいのです。
他方、任期が長いと、その間に役員の入れ替えをしようとするならば、当該取締役が辞任を受け入れないのであれば、最終的には解任をするしかありません。
しかし、任期中に解任をする場合、解任に正当な理由がない限り、残りの任期分の報酬を請求され、紛争となるリスクがあるのです。取締役の解任については、以下の記事で詳しく解説をしています。
役員間で意見が衝突し、役員の変更をしたいということは思っている以上に起こり得ることです。そうである以上、任期をあまり長く設定せず、任期満了までの期間を短くすることで、紛争に発展する可能性のある解任の手続を避けることは重要なポイントとなってきます。