あなたの会社の株主構成を今一度振り返ってみましょう。
1人で100%の株式を保有している場合には(相続などが生じない限り)株式を巡る争いは生じませんが,例えば親族で株を保有し合う同族会社や,複数名が出資して共同で起業した場合,投資家からの出資を受ける場合など,株主が2名以上となる場合には,会社経営の方向性を巡って意見が対立することもしばしば見受けられます。
このとき,事前に何らの合意もしていなければ,取締役選任で無用な争いを生じる,離脱する株主の保有株式を思いがけず高額で買い取らざるを得なくなるなど,様々な不都合が生じかねません。
もちろん,これらの問題に対しては,定款で定めることや種類株式の発行等により対処できることも多く,かつ,その方が確実といえる項目もありますが,他方で,変更のたびに株主総会決議や登記が必要であるなど手続きが煩雑となるデメリットもあり,また,取決めを行う内容は法律に予定された範囲内に限定されます。
そこで,株主間のルールを柔軟に取り決める方法として有効なのが,株主間契約です。
本稿では,主にこれから複数名共同で株式会社を設立してビジネスを開始する方や,少数の株主で構成される株式会社を主な対象に,次の事例に基づいて,一般的な株主間合意の条項につき説明していきます。
<事例>
これまで個人事業主として活動してきたAは,その事業が順調に拡大してきたことから,ビジネス仲間のB,大学の後輩Cを誘い,「株式会社ビジ法」を設立し,共同経営者として更なる事業の発展を目指すこととしました。
A,B,Cの3名で話し合った結果,資本金1000万円のうちAが500万円,Bが300万円,Cが200万円を出資して,その出資比率に従った割合で株式を保有すること,Aを代表取締役,BとCを取締役とすることなりました。
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出資額 |
株式 |
役職 |
A |
500万円 |
500株 |
代表取締役 |
B |
300万円 |
300株 |
取締役 |
C |
200万円 |
200株 |
取締役 |
株主間契約書のひな型はこちら:ひな型(株主間契約)
Contents
1 株主間契約を締結するタイミング
株主間契約は,あくまで株主相互の契約であり,株主が同意する限りいつでも締結することが可能です。会社設立時だけでなく,既に複数の株主がいる会社であっても,必要に応じて締結することが可能ですし,既存の会社で新たに出資を受けて株主が増える場合に締結することもできます。
また,次項に紹介する各項目のうち一部のみを内容とすることもできますし,一度締結した株主間契約の内容が不都合となった場合には,契約当事者の合意によって変更することもできます。
もっとも,株主間合意を締結するタイミングとしては,複数名で出資して会社を設立するとき,或いは,既に設立されている会社に新たな出資を受けて株主が増えるときが一般的といえます。
2 株主間契約で定めることができる事項の例
「株主間契約で何を決めることができるか?」との問いに対する端的な回答としては,「公序良俗に反して無効とされない限り,どのような内容についても定めることが可能」となります。株主間契約は,あくまで当事者(株主)同士の合意であるため,たとえ一部の株主にとって有利・不利となる内容であったとしても,契約自由の原則のもと,それが公序良俗に反しない限りは自由に取決めることが可能です。
以下には,一般的に株主間契約で定められることの多い項目について解説します。
2-1 売渡強制条項
会社にとって,誰がその株主であるかは重要な問題です。
例えば,共同経営者として取締役となった者同士で株式を保有していたにもかかわらず,そのうちの1名が取締役を辞任することとなった場合,同人が引続き株主で居続けることは,残りの取締役にとって賛成できないところかもしれません。
<事例>
会社設立後の仲違いで,Cが取締役を辞任することとなった。AやBは,Cの保有する株式を買い取りたい。
このような場合にも,株主間契約において出資額相当の対価で株式を買い取る旨を合意しておくことで,Cの保有株式をその出資額相当の対価で買い取ることができます。
第●条 株式譲渡
1. 株主が会社の取締役の地位を喪失した場合(辞任,解任その他地位喪失の理由の如何は問わない。以下「退任取締役」という。)、Aは,退任取締役の保有する会社の株式を自身又はその指定する第三者に対して譲渡することを請求することができ,退任取締役はこれに応じなければならない。
2. 前項の場合における株式1株あたりの譲渡価額は、当該株式の1株あたりの取得価額と同額とする。但し、株式取得後に株式分割、株式併合、株主割当ての方法による株式の発行若しくは処分、又は株式の無償割当てが行われていた場合には、当該分割、併合又は割当ての比率に基づいて調整された金額をもって譲渡価額とする。
3. Aが退任取締役に対し第1項に定める会社株式の譲渡請求を行った場合には、退任取締役はAの指示に従い,直ちに会社に対する譲渡承認請求、名義書換請求その他有効な株式譲渡に必要となるあらゆる手続を行うものとする。
4. Aは前項に基づく名義書換の完了後30日以内に、第2項に定める譲渡価額を退任取締役に対して支払うものとする。
このほか,BやCの立場からすると,どちらかが取締役を退任する場合に,その株式が全てAに買い取られることとなると,Aひとりで3分の2を超える株式を保有し,特別決議を含む事項をAの独断で決定できることとなるため,これを避けたいと考えるかもしれません。
その場合には,退任する取締役の株式は,その他の株主がその持ち株比率に応じて買い取ることとする方法も可能です。
なお,実際にこの条項に基づいて株式買取りを実行する場合,当該会社の客観的な株式価格が取得時よりも高額となっていると,税務上の「廉価売却」にあたる可能性があるため,税理士へ相談されることをお勧めします。
2-2 株式譲渡禁止
多くの中小企業では,定款において,株式の譲渡には会社(取締役会・株主総会)の承認を必要とする譲渡制限の定めが置かれています。
もっとも,株式の譲渡制限を定めていたとしても,株主がその保有株式の第三者への売渡しを希望して会社に対し譲渡承認を求めた場合,会社がこれを承認しないのであれば,その株式を会社又はその指定する者が「適正価格」で買い取る必要が生じます(※)。
この「適正価格」については,様々な評価方法があるものの,会社の内部留保金がたまっている場合などには「適正価格」が高額となる事例がしばしば見受けられます。
※譲渡制限株式に関する詳細については,次の記事も併せてご参照ください。
<事例>
株式会社ビジ法は,順調に業績を伸ばしてその企業価値(≒株式の価値)を増進し,純資産額は1億円に到達した。その矢先,Bが保有株式を第三者Dへ売却することを希望して,株式会社ビジ法に対して譲渡承認請求を行った。
この場合,仮に純資産ベースで株価を評価すれば,1株当たりの価格は,純資産1億円÷発行済株式総数1000株=10万円となり,Bの保有株式300株全てを買い取るためには3000万円が必要となります。
しかし,次のとおり定めておくことで,Cの保有株式をその出資額相当の対価で買い取ることが可能となります。
第●条 株式譲渡等の禁止
1 株主は、事前の書面による全員の承諾なしに、その保有する会社株式の全部又は一部につき、譲渡、貸借、担保設定その他の処分を行ってはならない。
2 株主が前項に違反した場合又は前項の違反を試みた場合、会社の役員及び従業員の地位の保有状況にかかわらず、会社は当該違反者に対して第●条(株式譲渡)の定めに準じて会社株式の譲渡請求を行うことができる。この場合,第●条(株式譲渡)の規定を法令上可能な範囲で準用するものとし、会社法第144条が適用される場合には、同条に定める協議による売買価格は、当該株式の1株あたりの取得価額と同額とする。但し、株式取得後に株式分割、株式併合、株主割当ての方法による株式の発行若しくは処分、又は株式の無償割当てが行われていた場合には、当該分割、併合又は割当ての比率に基づいて調整された金額をもって譲渡価額とする。
2-3 持株比率の維持
会社の持分である株式は,その保有比率によって支配の度合いが決まるため,株主にとって持ち株比率は重要な関心事となります。
例えば,募集株式発行の際に,株主の持ち株比率に応じて公平に割り当てを受ける株主割当増資(会社法202条2項)であれば持株比率に変更は生じませんが,特定の者に募集株式が割り当てられる第三者割当増資の場合,既存株主の持株比率に影響します。そして,第三者割当増資は,株主総会の特別決議で可能であることから,これに反対する株主がいたとしても,その持株比率を低下させられるリスクがあります。
<事例>
株式会社ビジ法では,新たにEに対して1000株を発行することとされ,株主総会ではAとCの賛成により特別決議が成立した結果,持株比率が次のとおりに変動した。
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募集株式発行前 |
% |
|
募集株式発行後 |
% |
A |
500株 |
50% |
→ |
500株 |
25% |
B |
300株 |
30% |
→ |
300株 |
15% |
C |
200株 |
20% |
→ |
200株 |
10% |
E |
― |
― |
→ |
1000株 |
50% |
このような事態を防止するためには,例えば,株主全員の同意なくして募集株式を行わないとする条項を合意しておくことが考えられます。
第●条 募集株式の不発行
株主は,全員の書面による同意がない限り,本件会社をして,本件会社の普通株式並びに普通株式を取得する権利又は義務の付された有価証券(以下「対象有価証券」という。)の発行等(公募か私募か,株主割当か第三者割当か,新規発行か自己株式の処分か,その形態を問わず,組織再編行為等における対象有価証券の交付を含む。)を行わないこととする。
2-4 議決権拘束条項
共同経営者として始めた会社であったとしても,経営方針の違いなどにより,多数派株主が少数株主である取締役を解任しようとすることがあります。また,機関投資家から新規の出資を受ける場合に,その機関投資家が少数株主であったとしても,自らも取締役を出すことを希望することもあります。
<事例>
①AとBは,しばしば株式会社ビジ法の経営方針において意見が食い違うCについて,取締役から解任することとした。
②株式会社ビジ法は,機関投資家Fから新たな出資を受けて200株を割り当てることとなったが,その際,Fは自身も取締役に加えることを条件とした。
①の場合,Cとしては,なお自身或いはその意に従う者を取締役として残すことを希望するかもしれません。
②の場合,Fとしては,取締役となった後すぐに解任されてしまっては意味がないことから,少数派株主ではあるものの,自らを取締役に選任できるようにしておきたいと考えるところです。
そこで,次のような条項を定めることが考えられます。
第●条 議決権拘束
株主は,会社の株主総会における取締役選任に関する決議においては,それぞれ1名の取締役候補者を選任する議案を提出することができ,他の株主は,当該議案に反対することができない。
3 株主間契約の実効性担保
株主間契約は,あくまで当事者間の合意(契約)であることから,合意に反する行為がなされた場合にも,直ちにその行為自体が無効とはなりません。
例えば,上記2-4の合意に反して,Fが提案するFを取締役に選任する株主総会決議にA,B及びCが反対した結果,Fが取締役に選任されなかったとしても,その決議が直ちに無効となるとは言い切れません。
株主間契約の実効性を担保する方法として,違約金や損害賠償額の予定を合意しておく必要があります。
第●条 違約金
株主が本合意の定めに違反した場合,他の株主に対して,それぞれ金●円の違約金を支払うこととする。