本しゃぶり

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プライムデーのKindle本から使い勝手の良い6冊

プライムデーのセール対象Kindle本を眺めていたら、馴染みのある本が結構ある。
そこで本しゃぶりで実績のある本を紹介することにした。

どれも使い勝手が良いので読むといい。

プライムデー

[プライムデー]Kindle本最大70%OFF

「こいついっつもセールしているな」

タイムセール祭りのたびにそう言いたくなるが、やはりプライムデーは他のセールよりお得感が大きい。ポイントアップキャンペーンもいつもより還元率が高い。最近は合計2万円以上でやっとポイント付与なんてものあるが、今回は1万円以上でよく、最大10%の還元となる。

ポイントアップキャンペーン

とはいえ安さやポイントに釣られて不要なものを買っても仕方ない。だから俺はセールでKindle本を買うことにしている。本ならそのうち役に立ちやすいし、Kindleならば場所をとらない。加えて本ならば金銭感覚がガバガバになるので、1万円も簡単に達成できる。

そんなわけでセール対象のKindle本を見ていると、読んだことのある本が結構ある。しかも本ブログで複数回利用したことのあるやつが。せっかくなので簡単にまとめることにした。

『スイッチ!』

おそらく本ブログで最も使った本。『スイッチ!』で記事検索したら以下がヒットした。

最初に使ったのが2020/04/12の記事で、最後に使ったのは2021/04/19の記事。つまり1年に渡って使い続けているわけだ。おそらく今後もライフハック的な記事を書くたびに使うだろう。

本書は人の行動を変えるための本である。対象は自分でも他人でも組織でもいい。どうしたら悪しき習慣を止め、良い習慣を始めて続けられるのか。そのためのフレームワークと実例が紹介されている。

自己啓発本は「読んで終わりになりがち」と言われるが、俺にとって本書は違った。様々な場面で得た知識を活用・実践し、記事にしたとおり結果を出している。上手く行くのは、本書のフレームワークが「頭を使わせない」ことを重視しているからだろう。明確な指示を与え、感情に訴え、環境を整える。そうすることで、やるべきことの精神的コストが最低限で済むのだ。この「行動する上で、いかに頭を使わせないか」というのが俺に合っていたのだと思う。

『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』

『スイッチ!』とセットで読みたい本。実際、本書を使った記事では必ず『スイッチ!』も使っている。

これは『スイッチ!』が解決方法に重きを置いた本であるのに対して、本書『欠乏の行動経済学』は問題を理解するための本だからである。記事を書きやすいのは問題解決の方だ。とはいえ問題の重要さを認識していなければ解決しようと思わないので、本書を読んで損はない。

本書では欠乏が生じるメカニズムと、欠乏状態から抜け出すことの困難さを書いている。欠乏の対象はタイトルの通り「時間」がその一つだが、「お金」でも同じことが言える。またダイエットしていれば欠乏するのは「摂取できるカロリー」だ。欠乏の対象がなんにせよ、人の認知機能の仕組みによって欠乏状態は次の欠乏を産み、悪循環に陥る。

一度欠乏状態に陥ると自力で抜け出すのは困難になるため、欠乏状態にならないのが肝心だ。そして突発的な出来事で欠乏しないために余裕を持つ必要がある。昔の人が「常に余裕を持って優雅たれ」と言ったのはそのためだ。

ちなみに本書は使った回数こそ2回だが、2020年に読んだ中でトップ10に入った本である。

『予想どおりに不合理  行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』

また行動経済学の本である。本書を使ったのはワニの記事。

一般向けな行動経済学の本は何冊か読んでいるが*1、本書が一番面白いと思う。紹介される人間の特性もそうだが、それを示す実験もなかなか興味深い。どうやったら仮説を実証できるのか。そのために行動経済学者はあの手この手を考え、学生をモルモットにする*2。

書かれているネタで一番好きなのはワニの記事でも使った「社会規範のコスト」だが、他のネタも面白い。例えば「性的興奮の影響」では、被験者に対して冷静な時とオナっている時に質問を行い、カリフォルニア大学バークレー校の優秀な学生でさえも性的興奮の下ではバカになることを示している*3。単純にネタとしても面白いが、この結果は興奮状態で判断を求める対策は失敗することを示している。こういった失敗を予測できるようになるというのが、本書の価値の一つだと言える。

行動経済学と言えば、有名な『ファスト&スロー』もセール対象なのだが、書かれている内容の多くに再現性が疑われている*4ことを知ってしまったので勧めにくい。幸い、「なぜ休みを延期することはこれ程までに辛いのか」で紹介したプロスペクト理論は大多数の実験で再現されている*5のが救いか。

では『予想どおりに不合理』はどうなのかというと、英語版Wikipediaと「予想どおりに不合理 再現性」で検索した感じでは特に問題視されていない。しかし調べ方が足りない可能性は十分にある。仮に再現性が無かったからといって健康や財産を失うわけではないのだから過度に恐れる必要は無いが*6、盲信するのは止めた方がいいだろう。


2021/08/19 追記

ダン・アリエリーが共著者である「情報を提示する前に誓約書への署名を課すことで不正行為を抑制できる」という研究について不正疑惑が出た。これは『予想通りに不合理』の13章にも関係する話。現時点では疑惑の段階だし、これで本書の全てが信用できないというわけではないが、困った話だ。

2021/08/22 追記

この件を記事にした。


『人体六〇〇万年史──科学が明かす進化・健康・疾病』

『けものフレンズ』の記事でがっつり使った本。あと検索したらその前にも使ったことがあった。

第1部はヒトの進化の話で、第2部と第3部は文明化によって生じた健康問題「ミスマッチ病」の話となっている。上巻はほぼ第1部で構成されており、下巻は第2部と第3部であるため、読んでいてまるで別の本のように感じる。俺の印象としては、「読んで面白い」のが上巻、「読んで役に立つ」のが下巻である。なお記事で使ったのは全て上巻のネタだ。

上巻のポイントはやはり二足歩行の重要性を説いていることだろう。二足歩行のメリットとしてよく挙げられるのは両腕がフリーになることだが、もっと重要な要素としてエネルギー効率が挙げられる。チンパンジーに酸素マスクを装着させてルームランナーを歩かせた実験では、消費エネルギーはヒトが同じ距離を歩いた場合の4倍にもなったという*7。実際、チンパンジーは1日に2~3km程度しか移動しないそうで*8、ヒトにとってはちょっとした散歩程度の距離だ。二足歩行以外にもヒトには長距離を効率的に移動するための要素が多くあり、このことから著者らは「持久狩猟」という狩猟方法で初期のホモ属は狩りをしていたと主張している*9。これは獲物が疲れ果て倒れるまで追いかけ続けることで、洗練された武器がなくても安全に倒せるというものだ。

そんな優れたエネルギー効率を誇るヒトが、座りっぱなしの生活を送るとどうなるか。それが下巻の内容である。かつては生き延びるのに有効だった機能が現在の環境では逆に弊害をもたらす。過剰なエネルギーが脂肪として蓄えられ、メタボリック・シンドロームが引き起こされる。逆に適切な負荷が加わらないと骨は貧弱になり、骨粗鬆症や埋伏智歯が生じる。そして腰痛。ヒトは身体を動かすのが前提の構造となっている。

最終的には雑多な食物をとり、運動することで予防しろという結論になる*10。この程度の結論のために、それなりの長さの本を読む必要があるのか。俺のように理屈っぽく、理由を知りたがるタイプは読むべきだろう。なぜならタイトルの通り、600万年前に遡って話を始めてくれるのだから。

『進化とは何か ドーキンス博士の特別講義』

進化の本をもう1冊。進化の仕組みを子供にも分かりやすく説明した講義をまとめた本。ここまでうまく説明できるのかと感心したため、思わずパロ記事を書いてしまった。進化そのものをネタにする時に便利。

本書が素晴らしいのは、様々な比喩やプログラムを活用することで、遺伝的アルゴリズムのパワーを分かりやすく教えてくれることにある。我々が普段目にする生物は、既に膨大な変異が積み重なったものであるため、これがランダムな変化の結果であると直感的に理解できない。特に眼のような複雑な器官は。

それに対してドーキンスは、現在から見れば単純で不完全に見えるレベルでも、無いよりはマシであることを目に見える形で教えてくれる。スクリーンとカメラを組み合わせることで、単純で原始的な構造の眼にどのようなメリットがあるかを示したのだ。

『進化とは何か ドーキンス博士の特別講義』より

最初は明暗が分かるだけでも無いよりマシであるし、少しでもくぼみが生じれば光源の方向が分かるようになる。そして開口部がさらに狭くなれば、ぼんやりとでもシルエットが分かるようになる、と。眼と言えば『ヒトの目、驚異の進化』もセール対象だ。

眼について進化の観点からより知りたいなら合わせて読みたい。

『偶然の科学』

偶然が大きな意味を持つのは進化に限った話ではない。「バズ」でも言えるということで本書の出番。

何かが大ヒットすると、もっともらしい説明が蔓延する。しかし著者によれば、大ヒットには偶然の要素が多いため、理由を探すことにあまり意味は無いという。連鎖反応において重要なのは火種の火力よりも、どれだけ密集し繋がりがあるか、なのだ。

本書はインターネットが発達したことで書けた本である。かつては大ヒットは偶然だと主張しても、その証拠を示すのは困難だった。なぜなら世界は一つしかないから大ヒットの再現実験をすることは不可能と言っていいし、情報がどのように伝わるか完璧に追跡することもできなかったからだ。しかしインターネットの登場でそれが可能になった。

著者のダンカン・ワッツはYahoo!やMicrosoftに勤めていただけあって、インターネットをフル活用して社会学の研究を行う。大ヒットにおいてインフルエンサーがどの程度重要かを確認するために、バズったツイートの連鎖をたどる。作品が大ヒットしたのは偶然か必然かを確かめるために、ABテストを発展させて複数の世界線を用意する。そうして定量的な分析を行うことで、偶然の比率が我々の想像以上に大きいことを示したのだ。

本書はクリエイターの人にお勧めしたい。作品がヒットする上である程度の「質」は必要であるが、それが大ヒットするかはネットワーク全体の構造に左右される。そしてネットワークは日々刻々と変化し続ける。ゆえに成功したければ試行回数を増やすしかない。そのことを知っているかどうかで、戦略は変わるだろう。

ちなみに上の「鬼滅の刃の記事」で使ったもう片方『ヒットの設計図』もセール対象である。

被る内容もあるが、合わせて読めばヒットメーカーにより近づくことができるだろう。

終わりに

今回紹介した本は、セール対象Kindle本である以外に共通点がある。それは全て早川書房から出版されているということだ。特に意識して選んだのではなく、セール対象の本からブログで使ったことのあるものをピックアップしていたら全て早川書房だったのだ。

以前から「早川書房のノンフィクションは当たりが多いな」と思っていたが、こう並べてみると確定的に明らかで笑える。早川書房にはこれからも頑張ってほしい。

他のセール対象の早川書房の本を使った記事

『赤の女王 性とヒトの進化』が該当。

*1:タイトルに「行動経済学」が含まれる本は8冊読んでいた。

*2:身近にいて少ない謝礼で言うことを聞いてくれる存在なので。なおこれでは被験者が裕福な欧米の若者に偏るため、ちょっとした問題となっている。はたしてエリートの若者は、一般的な人々と同じように振る舞うだろうか。

*3:例えばコンドーム無しで行うかという質問に対しては、興奮状態では冷静な時よりも25%も高く「無しで行う」と予想している。

*4:Thinking Fast and Slow | Replicability-Index

*5:Massive cross-national replication of Kahneman and Tversky's prospect theory https://t.co/vWgce4tvNa "With over 4,000 participants from 19 countries, we find that Kahneman and Tversky's 1979 findings replicate in the vast majority of analyses." Image: https://t.co/pSAE1QUJfE https://t.co/4sMl7D5IzH / Twitter https://mobile.twitter.com/SteveStuWill/status/1262542765440643072

*6:本書の内容を元に何かをするならその限りではないが。例えば政策に反映させるとか。

*7:Chimpanzee locomotor energetics and the origin of human bipedalism | PNAS

*8:Ontogeny of Ranging in Wild Chimpanzees | SpringerLink

*9:これは荒唐無稽な話ではなく、アフリカ南部のサン族など、最近でも持久狩猟が行われていた記録がある。

*10:本書には睡眠と瞑想の話は出てこない。