ピアノ

 

ピアノの内臓

 

毎年恒例の調律の日は、お医者さんに診ていただくみたいに少し緊張します。「いい感じに弾き込まれて、ほどよく狂っていますね」と調律師さん。この時、ずっと読んでみたかった「パリ左岸のピアノ工房」を、この秋冬の読書のお供にしようと決めました。

 

もし、このピアノ職人リュックならば、かつて信州の夫の実家で野菜置き場にされていた我が家のピアノを、多いに嘆くだろうと笑いながらページを進めます。(彼は滅多に演奏されない飾り物のピアノにはめっぽう厳しいからです)

 

「あんたはピアノといっしょに暮らすことになる。ピアノは大きいから無視することはできない。」

 

確かに彼の言う通り、信州の工房でフルメンテナンスされて復活し、浜松まで運ばれてきたその日から、ピアノの存在をひしひしと感じて暮らしていますから。

 

作中で多くのメーカーのピアノが魅力的に描写されますが、その度、子供の頃の私のピアノが一体どこのものだったのか気になって仕方なくなります。

 

エキセントリックな叔父から譲り受けたそれは、わかりやすくYAMAHAとかKAWAIではなかったのは確か。もう今は存在しないからこそ惜しまれてしまい、一枚だけ残る古い写真を夜な夜な探し出し、映る姿をじっとみつめるばかり。幻想は快感を呼びます。

 

と、まあ、こんな感じで、ピアノが好きな方ならば多大な影響を受ける可能性が。内に眠る想いが溢れてきてしまうかもしれません。

 

T.E. カーハート 「パリ左岸のピアノ工房」

 

読書空間 ひつじ日和

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