違法P2Pファイル共有ユーザを毎月摘発できるか?

日本でのP2Pファイル共有ユーザに対する著作権侵害での逮捕件数は、おそらく世界でもトップレベルだと思うのだが、それがP2Pファイル共有を利用した著作権侵害の効果的な抑止力となり得ているかといわれれば、その効果を疑問に思わざるを得ない。

これに関しては、ACCS専務理事の久保田さんも同様に考えていて

久保田氏は、アップロード行為者に対する刑事摘発が現状では「年間3〜4件ペース」と説明した上で、「その程度では違法アップロードへの抑止にはならない」と指摘。警察庁が中心となり開催する協議会では、「1カ月に1件程度摘発することで、ファイル共有ソフトの利用者への抑止効果が出る」といった議論もあると紹介し、自らも取り締りを強化する必要性を訴えた。

【デジタル時代の著作権協議会シンポジウム2009】 ファイル共有ソフトの著作権侵害対策、毎月摘発で抑止効果!? -INTERNET Watch

と、取り締まり強化によって抑止効果が出るはずだとのスタンスを取っている。
これについては、私も同様に現状の摘発ペースでは抑止効果を期待するには不十分であると思う。「年間3〜4件ペース」でも以前に比べれば活発になってきたなぁとは思えるのだが、それでもWinny/Shareでの情報漏洩事件よろしく、報道を聞かなければ「喉もと過ぎて熱さ忘れる」なので、やはり大した効果はないと思われる。更に中途半端に頻度が増した結果、1件1件についてそれほど騒がれることもなくなってきたし。

毎月摘発は可能か?

これについては今のところは定かではないが、それでもその方向には向かいつつあると思っている。WinnyやShareを利用した著作権侵害以外の犯罪の摘発も増えていているが、著作権侵害への摘発もここのところしばしば目にする。

今年7月以降のP2Pファイル共有における著作権侵害ユーザの摘発を見てみると、

最初のIBMのケースは毛色が異なるが、この3ヶ月のうちにこれだけのWinny、Shareを利用した著作権侵害が摘発されている。

特に先日のNDSソフトのケースは千葉県警による摘発であり、長らく京都府警の十八番とされていたP2Pファイル共有における著作権侵害の摘発は、各都道府県警でも行えるようになってくるのかもしれない。こうしたケースを扱ってきたのは、私が把握しているだけでも京都府警、福岡県警、警視庁、埼玉県警、千葉県警と着実に増えてきている*1。

MSN産経ニュースでは、「京都府警はなぜサイバー犯罪に強いのか」と題した興味深い記事を掲載している。その中でオンライン犯罪の摘発数の増加に関して

府警は全国の警察に捜査手法を伝授、各地での摘発も急増している。警察庁によると、20年の摘発数は16年の3倍を超える6321件。21年もこれを大きく上回るペースで増えている。

【Web】京都府警はなぜサイバー犯罪に強いのか (1/2ページ) - MSN産経ニュース

とある。オンライン犯罪全般についての記述であるため、一概にP2Pファイル共有における著作権侵害捜査のノウハウかどうかはわからないが、その捜査手法が全国の警察に伝わっていけば、摘発の頻度は更に増すことになるのかもしれない。

両輪あるアンチ・パイラシー対策を

個人的には、捜査手法など手続き上の問題がない限りは、こうした摘発が行なわれることは正しい方向性だと思う。私は著作権が無意味なものだとは思わないし、それが守られることが社会の利益ともなると思っている。少なくとも大枠としてはそう。だから、自らの意志で著作権侵害、つまり違法行為を行ったのであれば、それに対する罰が下されるのは当然であって、そこにたてつくつもりはない。不正に対する適切な対処があればこそ、ルールが守られる。

ただ、単に不正なユーザを罰していれば問題が解決するとも思えない。たとえ摘発が盛んに行なわれることになったとしても、そのターゲットになる人は全体のごくごく一部に過ぎない。たとえ今よりも危機感が募ったとしても、膨大な人数が参加するネットワークの1人に過ぎないという感覚があるうちは、自分はターゲットにはならないだろうと思うかもしれない。

より効果的な抑止力を生み出すためには、違法ファイル共有ユーザ全体を縮小し、個々人が抱えるリスクをより顕現化させる必要がある。結局は、そのネットワークに多数の人が参加しているという感覚を削っていくことが重要であり、そのための受け皿となるオルタナティブが求められているのではないだろうか。

とはいえ、これは単なるアンチパイラシーの話だけではない。インターネットというメディアは、既存のほとんどのメディアを部分的に代価しうるものであり、そのメディアが多くの人に普及している。そうした状況にあって、それに適応するのではなく、逆らおう、無視しようとすること自体、無理なことなのだ。何らかのかたちで適応しなければならない。それは、著作権侵害の問題を越えた、遙かに大きな課題である。

海賊ユーザに限らず、多くのユーザが気軽にオンラインを介してコンテンツ楽しんでいる状況を作り出すこともまた、1つのアンチパイラシー対策であると私は考える。もちろん、それを阻害しているのが違法流通なのだという批判もあるだろうが、しかし、それではジリ貧のままだ。違法ファイル共有のせいで産業が死ぬ、と嘆く分にはよいのだろうが、たとえ違法ファイル共有が綺麗さっぱりなくなったとしても、新たな環境に適応できなければ、衰退の運命から逃れることはできない。呪詛を唱える対象がいるかいないかだけの違いだ。変化を元に戻すことなどできないのだから。そして、その変化は現在進行形で続いているのだから。

最後に

私は違法ファイル共有問題を「正しい(または間違っていない)/正しくない」という問として考えてはいないし、そこで止まってしまってよい問題ではないと思っている。何故なら、答えははなから「正しくない」しかないのだから*2。

ならばどうするか、というところこそ、この議論に必要な部分であると思っている。「なくなればいい」というのは結論でしかなくて、そんなことは誰にだってわかりきっている。真の問題は、「どうやってなくするか」ということにある。

*1:P2Pファイル共有ネットワーク上での児童ポルノやわいせつ物頒布等の取り締まりを含めれば、更に多くなる。

*2:海賊党のような人々ですら、違法ファイル共有問題を「正しくない」と考えるだろう。それは、非営利のファイル共有が違法行為であるという状態は正しくない、と考えるため。