きょうは表題のイベントに出かけてきました。
出かけた動機
ここ数ヶ月担当チームのタスク可視化手法を調整しているところで、打ち手の引き出しを増やしたいと思っていたところちょうど近所で Backlog のカンファレンスが開かれるときいて。
JBUG (Japan Backlog User Group) の存在はなんとなく知っていたものの、関連の催しに参加するのは今回が初めてでした。ちなみに Backlog を初めて触ったのは2013年、その後数年のブランク(その間は Redmine がお友だちだった)ののちまた触るようになりましたが、近ごろ周囲は Google Docs(タスクはスプレッドシート、議事録はドキュメント)派と Notion (DB 自作)派に二分されており Backlog はどちらからも不人気な状況です。やっぱり時代はモードレス UI なのか…その点 Backlog のドキュメント機能にはぜひがんばっていただきたい…。
気になったセッションたち
チームを楽に、プロジェクトを早く進めるためのBacklog
誰がどう見てもそうとしか受け取れない文書術でつとに知られるサービシンク名村さんの講演。あの「文章術」は Backlog 運用の知見から生まれたものだった。
- Backlog を使いたくない人。運用は楽ではない。未来に苦労をしたいなら、いま楽をするのもいい。未来に苦労をしたくないなら、いま少しの苦労が必要。1年後にはきっと自分をほめたくなる
- 自分も Backlog の使い始めはめんどうだった。Excel でいいんじゃないか、マネジメントの都合など現場の人間には知ったことではない、ドキュメントを書いている間に作業したい。しかし5年後には「使っておいてよかった」「使っていなければヤバいところだった」となった
- 最初はめんどうだが1年運用を続けて、あらゆる情報を Backlog に集約する。「Backlog さえ探せばよい」状況に持ち込む。チャットやメールを探さない。探す時間は業務時間ではないと心得る
- 探しやすくするには表記ゆれをなくす。独自用語を導入せず正式名称のみを用いる。雑なタイトルをつけない → 「文章術」へ
脱属人化!Backlogを活用したWebサイト制作のフロー整備プロジェクトの進め方
丸野美咲さん。業務フローの標準化のお話ということで、目下の自分の取り組みにも通ずるところの多いお話でした。標準化もそれ自体がプロジェクトだった。とするならば、自分の取り組みには完了の定義が欠けているのかもしれない、と反省。
「頭のいい人が話す前に考えていること」 〜プロジェクトで「信頼」を生む技術〜
なんか聞いたことあるフレーズだな、と思ったら同名書籍の著者である安達裕哉の講演でした。安達さんの出自は品質マネジメント・プロジェクトマネジメントのコンサルということで、表題書籍の内容も PMBOK に通じるところがあるようでした。タイトルからはなかなかわからないですが、プロジェクトマネジメントの本として読めるなら興味あるかもしれない。
- ある人が「頭のいい人」であるかどうかは周囲の人が判断する。周囲の人にとって役に立つ人が「頭のいい人」。PMBOK でいうところの「感情的知性」
- 信頼感の生じるところ
- 相手の疑問・悩みに即答しない。いっしょに考える姿勢を見せる。信頼とはそれにかけた時間であり人間関係は効率化できない。PMBOK にもそれに通じる言及がある
- あいまいな言葉を使わない。デロイトで「コミュニケーション」は使用禁止だった。言葉の定義に敏感になる
- 「傾聴」とは単に熱心に聴くことではない。相手の話から自分の認識できた部分だけを切り取らず、相手の話を余さず理解すること。そのためには、相手が話しているとき次に自分が話すことを考えるひまはない。理解に全力を注ぐ
ことばをきちんと定義するという話は前段の名村さんの話にも通じますね。
リスクと不確実性に立ち向かう:マネージャーとチームメンバーが知るべき3つの原則
アジャイル関連のイベントでもお見かけする蜂須賀 大貴さん。プロジェクトマネジャーはまず今のプロジェクトのシナリオを10プラン用意せよ。メンバーはまず今のプロジェクトやタスクの道のりを言語化してみよ。
この「道のりの言語化」をメンバーに促すことが、まさにいま自分のやっている仕事なのでした(そしてそのための施策にネタ切れ感が出ていた)。そしてマネジャーたる自分が10プラン用意できていたかというとまだまだ修行が足りなかった。
そしてこのあたりで、名村さん・安達さん・蜂須賀さんの流れから、プロジェクトマネジメントって実は言語をマネジメントすることだったりして、とか考えだす。
ゴールドスポンサーセッション③「JetBrains IDEとBacklog連携」
サムライズムの山本さん。「JetBrains のことはご存じない方も多いと思いますが」という導入に、ああそうだここはエンジニアリングのカンファレンスじゃなかったんだ、と衝撃を受ける。PhpStorm には10年お世話になってます…!
当日発表のサムライズム製 Backlog 連携プラグインのデモを披露。これはちょっと試してみたいかも…社内で Backlog の優位性が一段上がるかもしれない。
Backlog日報で広がる輪!つながるチーム、変わる職場
河野千里さん。Backlog は感情に作用するプロジェクト管理ツールだった。「スター」機能がこんなにクリティカルなものだったとは知りませんでした…押したことなかったかもしれない。
全体的な所感
いままで見てきたアジャイル開発関連のカンファレンスは、どちらかというと理論的基礎をしっかり固めた人たちが集っているという印象でした。グローバルな議論を追っているとか、古典的名著を読み込んでいるとかして、その結果自分の実践の背景がきちんと抽象化されているというか。それと比べると今回聴けた話の数々はいずれも現場の実践に寄っているところがあって、想像していたよりずいぶん泥臭いんだなと感じたのでした。
でもそれがよかった、というのはそっちのほうが現場に浸透させやすいからなんですよね。抽象化された理念に触発された状態で現場に施策を持ち込もうとすると、抽象的議論を共有していない他メンバーにはどうしても何がしたいのかわからない取り組みに見えてしまう。ここしばらくそれが原因で仕事上スベっている自覚があったので、なんというかいい薬でした。Good Project Award 2024 の講評でヌーラボ代表の橋本さんがたしかおっしゃっていた「だれにでも真似できるということは再現性が高いということ」というのはほんとそのとおりだと思います。肝に銘じます。
あとはサムライズム山本さんのセッションでもそうだったとおり、必ずしもエンジニア主体のコミュニティじゃないというのが新鮮で、近ごろネタ切れを感じていた自分にはいい気分転換になりました。自分の周囲では「Backlog は非エンジニアには難しい(から使ってくれとは言いづらい)」という評も一部見られるんですが、今回見た限りビジネスサイドとの越境運用もぜんぜん夢物語ではないなと励まされました。思うに難しかったのは Backlog の UI とかではなく、「プロジェクト管理ツールは何に使うものなのか」という文化というか文脈の共有だったのではないかしら。ただ Notion からビジネスサイドの関心を奪うには モードレス UI は必須だと思うので、繰り返しになりますがドキュメント機能には大いに期待しています…!