破壊屋ブログ

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『渇き。』がわからなかった人向けの解説(ネタバレ有り)

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『渇き。』はちょっとわかりにくい映画だ。『渇き。』の物語のポイントは、加奈子の「やらかし」によって人々の利害関係が崩れてしまい、その混乱に父親の藤島が巻き込まれるという点だ。映画版『渇き。』は藤島が父親として娘の不始末をつけようとする物語で、原作版『果てしなき渇き』は藤島が娘から間接的に罰を受ける物語だ。

ところが映画版『渇き。』は物語の背景となる利害関係を勢いで描いているので、観客には物語が届きにくい。

せっかくなので俺が『渇き。』を観た人が引っかかりそうな疑問点の回答を書く。



以下ネタバレ!!



こんな事件って実際にありえるの?

元ネタとなった事件が二つあります。しかも両方とも逮捕までいってません。俺の推測なので本当に元ネタなのかどうかはわかりませんが。

一つは八王子スーパー強盗殺人事件です。銃殺の手口が鮮やかなことから銃の扱いに手だれな人物が犯人だと見られていますが、犯人の実像はつかめていません。定期的に警察やマスコミが真犯人説を報道しますが外国人犯人説や元自衛官説などバラバラです。

もう一つはプチエンジェル事件です。プチエンジェルとは女子小学生や女子中学生とセックスできる売春組織で、幼い少女たちをスカウトしたのは女子高生でした。この辺りは『渇き。』と同じです。現実のプチエンジェル事件は手配師の男が突然自殺して幕引きとなります。ビデオテープや顧客リストがあったにも関わらず顧客が誰も逮捕されなかったので「顧客に政治家か警察がいたのでは?」「手配師は本当に自殺なのか?」「手配師以外の黒幕がいるのでは?」と噂が出ました。ますます『渇き。』っぽいですね。

コンビニ強盗殺人事件はなぜ起きたの?

売春組織の写真担当だったオガワを殺すためです。オガワは不良グループのメンバーでもありました。長野はオガワが殺されたので自分も殺されるのでは?と怯えます。

チョウって何者?チョウって何がしたかったの?

映画では省かれているので原作の設定を説明します。チョウ(趙)はパチンコグループのトップでパチンコマネーを元に大きな権力を持っていました。そしてチョウは埼玉県大宮市でのショッピングモール建設計画を有利に進めるために、売春組織を使って町の有力者たちを囲います。

これは現実でもよくあることです。最近だとASKA容疑者と一緒にシャブセックスにハマっていた栩内容疑者は、人材派遣グループパソナの「接待」担当でした。パソナは福利厚生施設の「仁風林」を持っていますが、実態は財界人専用の超高級サロンです。ちなみに最近パソナは神奈川県の就職センター業務を受けることになりました。

他にもグラビアアイドルを集めて愛人派遣をやっていた噂のある何とか連合や、押尾学にセックス部屋を提供していたピーチジョンもあります。80年代の話ですが明徳義塾高校は野球部を強化する名監督を獲得するために少女売春を使いました。そのとき逮捕された明徳義塾の部長はクビになるどころか現在では明徳義塾高校の校長になっています。

加奈子はこのような売春組織と権力者の闇を破壊したのです。

なぜ加奈子は権力者たちと繋がりがあったの?

チョウの売春組織を大きくしたのは加奈子の力でした。加奈子はロリだろうがショタだろうが需要に応えるからです。そして、このロリやショタが悲劇の真相だったのです。

加奈子は何をしでかしたの?

チョウを裏切って脅迫用の写真が存在することを権力者たちに教えました。一連の流れを説明します。

  1. 売春組織がせっせと町の権力者たち(警察幹部や政治家)の買春写真を集める。
  2. 写真担当だったのは不良グループのメンバーでカメラマン志望だったオガワ。
  3. 加奈子が組織も不良グループも裏切って写真を権力者たちに送りつける。
  4. 警察、チョウ、ヤクザ、不良グループは加奈子を探すが見つからない。
  5. 売春組織の黒幕のチョウはとりあえずスニーカーにオガワ抹殺を命令する。

藤島(役所広司)が車に拉致られ橋の下で蹴られるシーンは何?

ヤクザと不良グループの抗争です。一連の流れを説明します。

  1. 藤島はファミレスと中学校で情報を聞き込み、娘の友人で不良グループのリーダーだった松永の存在に気がつく。
  2. 藤島は松永の母親の家に押し込むが情報が手に入らない。
  3. 藤島は女とイチャツキながら待ちぶせしていた松永に拉致られる。
  4. 藤島が橋の下に連れて来られた時に、ヤクザたちが不良グループを襲撃する。
  5. 藤島はそのとばっちりを受けてヤクザに蹴られて気絶する。
  6. 現場に駆けつけった浅井(妻夫木)は藤島にヤクザと不良グループの抗争が起きていることを説明する。

ヤクザの下請けだった不良グループなのに、なぜ抗争が起きたの?

不良グループのリーダー松永が加奈子に惚れていたからです。これは映画オリジナルの設定で、原作だと不良グループは内部崩壊を起こします。

中学生の葬儀シーンはなに?

加奈子のボーイフレンドが自殺したのでその葬儀です。

加奈子の目的は?

チョウと不良グループを破滅させることです。チョウと不良グループはボーイフレンドの自殺の原因です。原作だと加奈子の目的を知った藤島が「俺がチョウを殺す!」と決意するのがクライマックスです。映画だとさらにトリックがありますが…。

3年前と現在の見分け方は?

映像の色調で3年前と現在の違いを表現しているので時系列映画を見慣れてない人には難しいかも。「ボク」が出てくるのが3年前です。

クライマックス前にヤクザが藤島と会うのはなぜ?

これも映画だと省略されているので原作の設定を説明します。脅迫用の写真が存在することを知った一部の権力者たちはヤクザにチョウの抹殺を依頼します。ヤクザはチョウを拉致ろうとしますが、チョウの殺し屋であるスニーカーが邪魔で実行できません。

ここからは映画でも描かれていますが、ヤクザは藤島にスニーカーの排除を依頼します。藤島は娘の安全と引き換えに依頼を受けます。

ちなみに原作だとここらへんの展開は、それぞれの複雑な利害関係が藤島の「ぶっ殺してやる!」という想いに収束していく小説ならではの名シーンです。

スニーカーの人物は複数犯ですか?

複数犯です。劇中では妻夫木が説明していましたが、ヤメデカ(警察を辞めた人たち)のゴロツキを集めた模様です。ただリーダーのスニーカーはヤメデカではなくて現役です。

スニーカーは何者ですか?

警察がチョウに預けた刑事です。ただしスニーカーは殺人マニアになってしまったため警察からも狙われていました。原作や映画の元の脚本では子どもの透析費用を稼ぐためにチョウの仕事を受けていましたが、映画本編では省略されています。

現実でも警察はパチンコの元締めでパチンコ業界は警察の天下り先でもあるので、警察とパチンコ業界が協力関係にあるのはわりと自然な設定です。

スニーカーって何?

オダギリジョーのことです。スニーカーを履いているから便宜上スニーカーと読んでます。ほとんどの殺人の実行犯はスニーカーです。

橋本愛はなぜ怒ってるの?

加奈子が周囲の女性(特に長野)をシャブ漬けにして売春させたからです。

浅井はなぜスニーカーを殺したの?

コンビニ強盗殺人事件と長野殺人事件を隠ぺいするためです。原作ではコンビニ強盗殺人事件に対する世間の反応は外国人犯罪説が主流になって未解決となります。

コンビニ強盗殺人事件の第一発見者が藤島だったのは偶然?

偶然です。藤島の職業は警備員で、コンビニから警備会社に通報があったので藤島が駆けつけただけです。藤島が「俺が犯人」と言っているのは単にヤサぐれているからです。物語的な意味としては加奈子から藤島への罰が始まるシーンです。



以上です。映画版は登場人物たちの感情のぶつかり合いが激しくて物語が入る余地がありません。映画の内容がわからなくてもそのぶつかり合いが醍醐味です。

俺が他に書いた『渇き。』の解説はこちらにあります。