WBC2009〜勝ったから言うけれど、いい勝負だったぜ〜

「いっそ敬遠して(1塁に)歩かせろと指示しなかったことが後悔される」。韓国代表チームの金寅植(キム・インシク)監督は試合後、深い無念の色を隠せなかった。延長10回表2死二・三塁でイチローに許した決勝の2点タイムリーヒットのことだ。金監督は「あの時、ベンチからは“イチローに四球を与えてもいいから、ストライクゾーンから外れるボールで勝負しろ”というサインを出した。捕手はサインに気付いたが、それが投手にまで伝わっていなかったようだ」と語った。

http://www.chosunonline.com/news/20090325000017

 ラジオの実況も、テレビの実況も、敬遠して塁を埋めるという可能性を示唆した。しかし、現実はあの勝負になった。録画を見ても、胃がキリキリするような対決。名勝負といっていい。
 見ている側ですらそうだ。勝負してる当人らはどうだったんだ。ごっつい視聴率だろうな、とか思える人間は、壁の向こう側の存在としても……。

これについて、林昌勇は韓国野球委員会(KBO)広報チームを通じ、「きちんとサインが見えなかった」とコメント。また、「(ストライクでなく)ボールを投げようとしたが、真ん中に入ってしまい失投になった。イチローと勝負したいという気持ちもあった」と当時の状況を説明した。

http://www.chosunonline.com/news/20090325000017

 「イチローと勝負したいという気持ちもあった」と、ここんところにしびれるね。しびれる場面だった。もちろん、イチローの次に控える打者だって、押しも押されもしない強打者だ。だけれども、やはりイチローは別格。あの場面で、世界一というタイトルがかかるあの場面で、世界のイチローと勝負する。それって、抑え投手冥利につきるんじゃねえの……って、周りが言うことじゃない、イチロー応援していた側が言うことじゃないかもしれないが、そんなところもあるんじゃねえかって思うのだ。林昌勇(イム・チャンヨン)とて、韓国を代表する抑えのエースであるわけだし、日本でも結果を出した。そこでイチローを抑えられるかどうか、天国と地獄、勝負の分かれ目。あの甘い球を弾き返されて、カメラ側にふり返ったときの、林の表情……!
 そして、この男と男の勝負を演出したのが、韓国の監督だったと言ったらおかしいだろうか。“イチローに四球を与えてもいいから、ストライクゾーンから外れるボールで勝負しろ”……。これはあんまりやっちゃいけない指示だってのは、ちょっと野球を見ている人間ならわかるはずだ。勝負しないならしない、はっきり敬遠させるべきなんだ。だから、途中からでも監督は、「キャッチャー立って敬遠」のサインを送れたはずなんだ。でも、そうしなかった。そこんところに、勝負させてやりたいというような、そういう思いがあったんじゃねえかと、俺は想像してしまう。勝負に負けたのは、林のせいじゃなく、ベンチワークのミスだ、と……。いや、なんか投手と捕手のサイン見落としみたいなことになっているけれども。
 まあともかく、あそこでイチローに打席が回り、あの勝負になった。野球の神さまみたいなのがいたら、それはもうそうさせたんだぜって思う。イチローのはからいでも、林のでも、金監督のでもないんだ。俺はそう思うし、そういうところで、野球の神さまみたいなのがいたら、それに感謝したいって思うぜ。そしてもちろん、イチローにも、林にも金監督にも、だ。

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