選挙ドットコムでは、いろいろな視点から関心を持つきっかけを持ってもらおうと、様々な第一線で活躍されている方に「選挙」についてインタビューを行っています。
今回は、SNSなどでも鋭い視点から切り込んでいるブロガーのやまもといちろうさんにインタビューをさせていただきました。聞き手は選挙ドットコムCCOで選挙プランナーの松田馨が務めます。(全4回掲載)
第1回は議席予想や世論調査について。今週末10日に投開票の参議院選挙でも、様々な調査と情勢報道が行われています。その裏側に迫ります。
各社の情勢報道についてはこちら>> 【序盤情勢の平均は「改憲4党で3分の2」。各新聞社 議席予想 】
松田:やまもとさんが以前に書かれていたブログ 「有権者は馬鹿」なんじゃなくて「政策に詳しくない」だけ を読んで感銘を受けまして、お会いできて光栄です。
やまもと:いえいえ恐縮です。むしろ今まで貴殿とお会いしたことがないのが不思議なくらいですね。
松田:さっそくですが、やまもとさんは選挙の調査について、よくブログにも書かれています。選挙ドットコム読者は、基本的にあまり選挙、政治に関心ない方は、なんで投票箱が閉まってすぐ8時に、すぐ当確が出るのかがよくわからないんですね。
やまもと:いわゆる「ゼロ打ち」ですね。
松田:なぜ「ゼロ打ち」ができるのかがよくわからない。選挙の現場だと、それで怒る支持者の方もいる。その辺のことも知らない読者層が選挙ドットコムを読んでいると思うのですけど、そういった部分を少しご解説頂きたいな、ということでよろしいですかね?
やまもと:わかりました。そもそも選挙関連の調査というのはなんなのか、あまり知られていないと思うんですけど、基本的には世論調査もしくはNHKだと政治に関する各種調査をやる中で、支持動向や各選挙区別の支持率、どの属性の方がどういう候補者を支持しているようだという情報を集めています。その中で過去の対比で、この選挙区のこの候補者の方、この地域の方はこういう投票行動だというベースの数字があります。これは選挙があろうがなかろうがヒアリングはずっと続けているものです。これは各メディアさんもそうですし、公的な機関も一定の情報は集めています。その中で最終的なヒアリングしたり、期日前の出口調査と組み合わせて「こういう数字であれば統計的にこのくらいの得票になるだろう」というレンジが出るわけですよ。
松田:過去データの蓄積があるわけですね。
やまもと:そうです。そして投票日に近づくほどレンジは狭くなってきます。で、トップの候補者の得票予測の最低と、次点の候補者の得票予測の最高を推定し、その線が交わらなくなると当確という判断が出る。そのタイミングは、それこそ圧倒的な差がついていれば公示日・告示日に当確だと分かっていることもありますし、途中の期日前投票の出口調査の中身で当確という判断が出ます。ただ、人気投票の公表の禁止であるとか、そういった観点からいきなりは出せませんし、選挙期間中の予測は、一部のメディアでは人気投票にならないように公示日前の調査とネットでの発言数などのビッグデータを組み合わせて発表するようになりました。でも「どの党・候補者が優勢」みたいなことに関しては、事実の客観的報道だということで許されるという前提にたって、各社さん、もしくは週刊誌のようなところがメディアを通じて発表しているわけです。
松田:いままさに、参院選でも序盤の情勢について、各党の議席獲得予想が報道されています。こうした情勢調査は、過去の蓄積も含めて、複数の調査を組み合わせて行われていますよね。
やまもと:選挙の情勢調査は何種類かに分かれます。一つは定点観測で選挙があろうがなかろうが調べているもの。次に選挙の前、候補者が確定した段階で行われるRDD調査、そこから投票日前の出口調査やネットパネル調査。そういったことを組み合わせていくと、今や投票箱が開く4日前には98%を超えるほどの精度で得票まで出せます。逆に言えば、投票の態度を固めた有権者は、後付けで事件や失言があってもあまり投票先を変えることはない、ということです。
松田:投票日が近づくほど当落予想はしやすくなりますが、4日前でそこまでの精度はすごい。
やまもと:ただもちろん、イレギュラーもあります。2014年の橋下徹さんの「維新敗北宣言」とか。
松田:あれはびっくりしましたね。私も関西圏の候補者のお手伝いをしており、維新の議席数に注目していたのでよく覚えています。投開票日の前日に橋下さんが敗北宣言してことについて、やまもとさんが「大将は間違っても部下の背中を撃つような話をするべきじゃないと思うんですが」と書かれていて、全く同感でした。選挙的には、これで維新の敗北が決定的になったと思っていたら、結果的に事前の予想よりもかなり維新が議席を伸ばしました。いわゆる「アンダードッグ効果」で大阪人の同情票が入った。これは予想外でした。
やまもと:最後1日であそこまでひっくり返したというのは、選挙史に残る事件だったと思います。
やまもと:他にも「加藤紘一落選」というのがあってですね。公示日前には圧倒的有利だったのに、彼が駅前で演説するたびにろれつが回らない、足元もおぼつかないというので日に日にポイントが下がっていきました。
松田:2012年の衆院選でしたね。あれは正直、表に出なければ当選されていたでしょう。
やまもと:おっしゃるとおり、一度も街頭演説をやらなければ勝ったと思います。あとは菅直人さんですよね。2014年の衆議院選挙は比例で復活しましたけど、選挙区当選は確実と思われていました。選挙期間中にやった情勢分析で、大きく票を落とすんですよ。なんだろうなと思ったら、街頭演説でやらかしたというのがあっという間に有権者の間に広がっていった。
松田:選挙業界では、選挙期間の短さもあって「公示日・告示日(選挙がはじまった時点)で結果は決まっている」と言われていましたが、期間中の動きが勝敗を左右することもありますよね。
やまもと:そうですね。公示日・告示日時点でわかると言っても、陣営の活動によっても変わりますし、スキャンダルが出ましたとか、新しい大きな政治問題が出ましたとか、そういうところで大きく票が動いていくっていうのはあり得ます。別の観点では、そのぐらいの大ネタがないと、公示日前の事前予測をひっくり返す奇跡は起きない、だから選挙期間前の地道な活動のほうが大事だ、とも言えます。
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