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ファッション業界で光放つ日本のものづくり 買い叩かれないブランド育てるカギは?

World Now 更新日: 公開日:
日本を代表するデニム生地メーカー、クロキの作業の様子
日本を代表するデニム生地メーカー、クロキの作業の様子=同社提供

ハイブランドの世界では、表舞台でも、そして裏方役としても、日本産が欠かせない存在になっている。かつては時代の最先端を行っていた日本の産業が色あせて見える昨今、日本のファッション業界から新しいビジネスの潮流を生み出せないのか。記者が考えた。(後藤洋平)

外を歩く時にはソニーのウォークマンを携帯し、家に帰れば家族が任天堂のテレビゲームをしている。

かつて、多くの先進国の人々が、生活や価値観を一変させた日本の最先端の製品を買っていた時代があった。現代のiPhoneのように。若い世代に説明しても、信じてもらえないかもしれないけれど。

しかし現在も、パリ・ファッションウィーク(PFW)の取材に足を運ぶたび、海外の人から「日本ってすごいね」という趣旨の話を聞く。

パリで発表されたコムデギャルソンの新作
パリで発表されたコムデギャルソンの新作=2024年9月、後藤洋平撮影

40年以上にわたりPFWの公式スケジュールで新作発表を続ける川久保玲と山本耀司。高田賢三や三宅一生、森英恵らを含めた先人たちが切り開いた道を、アンダーカバーの高橋盾、サカイの阿部千登勢らに続き、多くの中堅・若手デザイナーが歩む。国別にみると、レディースシーズンではフランス、ベルギーに次いで3番目。メンズシーズンでは現地フランスに次ぐ2番目の多さだ。

さらに、アベイシングエイプの創業者NIGOは、LVMH傘下のケンゾーでデザインを手がけ、アンリアレイジの森永邦彦はフェンディと、ホワイトマウンテニアリングの相澤陽介はラルディーニなどと協業してきている。

アンリアレイジのデザイナー、森永邦彦
アンリアレイジのデザイナー、森永邦彦=2020年1月、後藤洋平撮影

今回の特集では、こんな表舞台のデザイナーたちの活躍の一方で、世界の高級ブランドにとって欠かせない存在となって、光を放っている日本のものづくりを紹介してきた。

ホワイトマウンテニアリングのデザイナー、相澤陽介
ホワイトマウンテニアリングのデザイナー、相澤陽介=2023年2月、後藤洋平撮影

クロキのデニムや細尾の西陣織、尾州のウール、東北に多い縫製工場など、欧州のハイブランドへの素材供給や、製造請負の取引も多い。

ただ、完成品の洋服の原価率が、3割から時には1割ともいわれる現状を考えると、当然、「何かもっと、うまくやる方法はないものか」と考えてしまう。有名ブランドが高い価格で商品を売っているのに対して、供給する日本勢が「安く買いたたかれている」という構図だからだ。

尾州の織物工場。職人ができばえを点検する
尾州の織物工場。職人ができばえを点検する=2017 年11月、愛知県一宮市、中野龍三撮影

一方で、日本側でも、ファッションの価値に対する認識が根付いているとは言えないだろう。

ファッションの都パリを抱えるフランスは、日本人デザイナーの高田、三宅、川久保、山本に芸術文化勲章を授与したほか、受章時に39歳だった日本人帽子職人らにも「フランスの人間国宝」と称される仏国家最優秀職人章(MOF)を与えている。川久保は昨年、日本で文化功労者に選ばれたが、直前には「日本では、ファッションはまだ文化にはなっていないと思います」と語っていた。

才能あるデザイナー、高品質な素材を作るサプライヤー、高度な技術の縫製工場など、日本には、すでに世界的に認められているすべてがそろっているのは確かだ。

ツイード生地メーカー、日本ホームスパンの工場。フランスの高級ブランド向けに生産している
ツイード生地メーカー、日本ホームスパンの工場。フランスの高級ブランド向けに生産している=2023年12月、岩手県花巻市、長谷川陽子撮影

少子化で内需頼みの成長に期待は薄くなっている。そんななか、政府と業界の戦略的で多面的な協力など、きっかけさえあれば日本のファッションはアニメなどと同様、海外でも大きく稼げるのではないか。

現場取材を続けながら、追い求めていきたい。(敬称略)