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日本人はおしりが好き?

子連れで特派員@ベトナム 更新日: 公開日:
ポコが持っている「おしりたんてい」の本=鈴木暁子撮影

鈴木です。6歳の長男(ポコ)と夫(おとっつあん)と一緒にベトナム北部ハノイで暮らしながら新聞記者をしています。今回はおしりに対する寛容さについての話です。

4月。我が家のポコは日本にいれば小学1年生の春だ。ランドセルをしょってきらきらと笑う新1年生の姿を日本のニュースで見た。親としては、一生に一度の晴れやかな姿を日本で見られなかったのはちょっと残念。3月末にホアンキエム湖周辺で開かれた「ハノイ日本桜まつり」を訪ね、空輸された日本の桜をながめて入学シーズンの雰囲気を味わった。

3月末に開かれた「ハノイ日本桜祭り」の会場で桜を撮影する人=鈴木暁子撮影

ポコはハノイでインターナショナルスクールに楽しく通っている。あんなに英語がわからないと泣いたのに、いまでは数字も英語のほうが数えやすく、ひらがなはおぼつかないがアルファベットなら絵本が読めるようになった。最近は「火曜日にお出かけするよ」などというと、「それって何デー?」と聞いてくる。サンデー、マンデー、何デー。日本に帰ることになったら言葉でまた苦労するだろうか。一方で、せっかく少し身につけた英語は、使わなければあっという間に忘れるらしい。

ベトナムでも日本語の本になじんでほしくて、読み聞かせのため本をたくさん持参していた。一時帰国した際にも買っている。中でもポコのお気に入りの一つが「おしりたんてい」シリーズだ。「おしりたんてい」は、桃のようなおしり型の顔をした探偵が、ときどきおならをこいて敵を倒しながら、難題を解決していく、わくわくする物語の連作だ。

ポコが愛読する「おしりたんてい」シリーズ(ポプラ社、作・絵トロル)の本とウェブサイト=鈴木暁子撮影

ところが、この現代日本を代表する大人気シリーズ「おしりたんてい」をめぐって、ハノイのインターナショナルスクールで「事件」が発生した。ある日本人のお母さんに興味深い話を聞いた。

このお母さんの息子さんは4年生。仲良しの日本人の男の子とともに、英語が母語ではない子どもが参加する「外国語としての英語(EAL)」の授業に出ていた。「読書感想文を書きましょう」といわれて、日本人男児2人が書いたのはもちろん「おしりたんてい」の感想文だ。ルンルンと、おしりたんていの絵まで描いた。すると、米国人の先生が大激怒した。「授業中にそんな下ネタを書くなんてもってのほかです!」。2人のうちひとりはすぐに消したものの、もう一人の男の子は絵の写真まで撮られてしまい、自宅に「授業中にこんな絵を描いてふざけている!」と、メールまで来てしまったそうな。

ひえー。親御さんはどう思っただろう。「おしりたんていですけど何か?」と思うよなあ。

海外に出ると、こういった話には事欠かないようだ。別のお母さんは、英国に住んでいたころアンパンマンの必殺技「アンパーンチ!」を見た米国人に、「な、なんかすごいわね」とドン引きされたという。暴力的すぎるのか。ベトナムの別のインターナショナルスク-ルではカンチョーが問題になった。「『人のプライベートパーツについての理解が足りない』って、先生に怒られたこともあります。インターナショナルスクールでのおしりや下ネタの反応がわかってから、ふざけてでもやるなと教えています。スカートめくりなんてもってのほかでしょうね」と、事件に直面したお母さんは教えてくれた。

私が育った昭和の時代、日本の小学生のカンチョーやスカートめくりは、まだ「許されるおふざけ」とされていたように思う。だが、グローバル化が進む現代、それが大問題となるということも知っておかなければならない。

おしりにまつわる表現にも、日本人はいまだに寛容すぎるのだろうか。テレビを見ると、NHKでも「おしりかじり虫」をやっていたし、最近は「おねがい!ももじりぞく」というのもあるようだ。そして、忘れちゃならない、我らが「クレヨンしんちゃん」。おしりも何も出しまくる。

ベトナム語版の「クレヨンしんちゃん」は、えんぴつ男児しんちゃんといったタイトル。右下におしりが…。=鈴木暁子撮影

中国出身の知人に聞くと、しんちゃんは「『小新』ね、アジアの人はみんな知ってる」と即答、韓国の人もよく知っていた。さすが有名人。ベトナムでも「えんぴつの男の子しんちゃん」という意味のタイトルで翻訳本が売っており、YouTubeなどでアニメを見たことがある人もいる。彼らに「おしりたんてい」の本を見せると、「なんの問題もない」。中国人の知人に至っては、「怒るなんてひどい、みんなおしりがあるのに何が問題なの?学校は小さなことまで問題にしすぎる」とプンプン怒り出すほどだった。

日本ではやりの「うんこ計算ドリル」も、国によっては御法度なのかもしれない。子どもはうんちやおしりやおならが大好きだし、そういうものよね、と日本人は考える。そのモチーフを入り口に、物語や計算の世界に子どもをいざないたい、という大人たちの工夫でもあるのだけれど。国や文化によっては受け止めが違うものだ。

ちなみに、ハノイではボランティアが運営する小さな図書室「ハノイ文庫」で、日本語の本を読むことができる。帰国する家族から寄付された本や、追加購入した新しい本などを毎週土曜日に貸し出している。ボランティアの紙谷宏絵さん(42)によると、ハノイの日本人小学生に人気の「グレッグのダメ日記(英語名Diary of a Wimpy Kid)」も、正統派の英語で書かれていないからと、英語圏では読ませない親御さんもいるのだそうだ。

「ハノイ文庫」では「グレッグのダメ日記」も貸し出している=鈴木暁子撮影

それよりも紙谷さんが心配するのは、「小学校5、6年生からスマホを持つようになったことによる本離れ」だという。サービスアパートの一室で10年以上前から続いてきたハノイ文庫の来客数も、以前の3分の1になった。アパートの選択肢が増えて日本人の居住地が分散したことや、子どもたちが習い事で忙しいことが理由だ。本を通じたハノイの日本人の交流の場をどう維持していくか、模索しているところだという。

人気の「かいけつゾロリ」シリーズの本を見せる「ハノイ文庫」の紙谷宏絵さん=鈴木暁子撮影