素足の効用

最近は室内でしか素足で歩いたり走ったりしていません。しかしこれは面白い研究。公園を素足で走りたくなりました。今回はscience_qさんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。

素足の効用
最新号の『Nature』誌に面白い論文*1 が載っていました。何が面白いかというと、なんでこんなテーマの研究が、世界最高峰の雑誌に載るのかというくらい身近なテーマでありながら、その結果は、人類の進化に関する非常に奥深い示唆を与えるという、昨今の職業的研究者にはちょっと思いつかないような内容だったからです。そのテーマとは、簡単に言えば「走るのには素足がいいか、ランニングシューズを履いた方がいいか?」みたいな内容です。そして、この研究を発表したのが、スポーツメーカーやスポーツ医学の専門家とかではなく、ヒトの進化を専門とした生物学者だったというのが、また意外です。
*1:『nature』 28 January 2010 「Foot strike patterns and collision forces in habitually barefoot versus shod runners」
http://www.nature.com/nature/journal/v463/n7280/fp/nature08723.html?lang=en
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自身も熱心なランナーでもある、ハーバード大の人類進化学者ダニエル・リーバーマン博士は、ふと素朴な疑問を抱いたようです。ヒトの先祖が2 足歩行を始めて約200万年経つのに対し、ヒトが運動靴を発明して約100年、そしてそれが人々の間に浸透してわずか30年しかないことを考えると、2足歩行のほとんどの期間、彼らは素足で走っていたことになり、それがどのくらい大変なことだったのか確かめたいというものでした。

リーバーマン博士らは、アメリカとケニアから、靴を履く習慣の違う200人を集め、3グループに分けました。生まれたときからずっと素足で過ごし、靴を履いたことが一度もないグループ、小さいときは素足で過ごしていたが、今では靴を履いているグループ、生まれたときから靴を履いて育ったグループです。そして、それぞれのグループに素足と靴を履いたときと両方で走ってもらい、その走り方のフォームや全身への衝撃の度合いなどを計測しました。

その結果、靴を履いて走った場合、すべてのグループで踵(かかと)から着地する傾向が見られたのに対し、素足で走った場合、親指の付け根の母指球か足の裏全体で着地することが多いということがわかりました。そして、この着地の違いによる身体への衝撃は、素足の時が全体重の0.5-0.7倍の力だったのに対し、靴を履いて走った場合、全体重の1.5-2倍の力が加わったというのです。これらの結果は、当初の予想と全く正反対で、素足の方が身体への負担はずっと軽いということを示唆していたのです。

人類は200万年かけて、最も効率がよく、身体への負担の少ない走り方を進化させてきたようです。それを、文明の証である靴を履くことによってわざわざ台無しにしているというなんとも皮肉な結果というわけです。もっとも、現代の道路事情は、靴を履かずして安全を確保できるほど良好ではないので、素足で走ることができる場所は限られているでしょうね。でも今回の研究結果は、究極の靴とは何かという根本的な問題にひとつの方向性を与えてくれたと言えるでしょう。靴を履いているとは感じさせないような軽さで、それでいて、足の裏を道路上の異物から守る、そんな靴でしょうか。でも、そんなことは、すでに大手のスポーツメーカーなら知っていたような気もするのですが・・・

後記:今回はあまりに身近でかつ多くの方が興味をもつであろう内容であったため、まさかとは思ったのですが、様々なメディアがこの発見を扱っていました。その中でも、秀逸だったのが『ナショナルジオグラフィック』の記事*2 です。いやあ、よくできた記事です。私も見習いたいのは山々なのですが、さすがに電子メールでの独自取材などは、多分返事など返って来ないでしょうね。
*2:『ナショナル ジオグラフィックWebサイト』 ニュース January 28, 2010 「裸足で走る方が足への負担は軽い」 Richard A. Lovett
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20100128003&expand

執筆: この記事はscience_qさんのブログ『サイエンスあれこれ』より寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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