皆さまへ
ゲンロンは東京・五反田にある人文系の出版社です。書籍をつくるだけではなく、イベントスペース「ゲンロンカフェ」を構え、トークショーや連続講座を開催しています。2020年には独自の配信プラットフォーム「シラス」をオープンしました。「ゲンロン完全中継チャンネル」など複数のチャンネルを運営して、哲学から情報技術、サブカルチャーまで、幅広いジャンルのトークを発信しています。
辞書を引いてみると、人文学とは「人間の精神的な活動や経験を対象とし、人間の本性の探究を目的とする定性的な学問」(平凡社『大学事典』)とあります。定性的とは、ものごとの数値化できない部分を扱うということです。生きていると、数字では測れないこと、目に見えないことだらけ。だから、ひとは見えないことを見て、数値化されないことに想いを馳せるのかもしれません。
時代によってひとつの見方が優勢になると、別の見方があることがわからなくなったりもします。でも、さまざまな見方が並立するからこそ、世界は多様で豊かなのです。わたしたちは、読者や観客のみなさんとともに、複雑な世界を複雑なままに捉え、想像力を働かせ、考える努力を続けていきたいと思います。
皆さまへ
ゲンロンを立ち上げたのは2010年のことです。当時30代を終えつつあったぼくは、大学とも出版とも異なる「第三の人文知の場」を夢見て、この会社を設立しました。夢はまだ道半ばです。弊社は成長を続けてきました。現在の事業内容は出版だけでなく、イベントスペースの運営や動画配信プラットフォームの開発など多岐に渡ります。他方で、人文知を取り巻く環境はより過酷になっています。この12年、震災が起き、コロナ禍が起き、戦争が起きるなかで、人文知への信頼は繰り返し損なわれてきました。人々はもはや「文系」の言葉になにも期待していません。失われた信頼を取り戻すのは容易ではないでしょう。けれども弊社はその困難な課題に取り組み続けたいと思います。なぜなら、それが社会をよくすると信じるからです。
世界は暗い時代に入りつつあります。哲学や文学に世界を変えることはできません。けれどもひとを救うことはできる。その原点に立ち返り、できるだけ多くのひとに豊かな人文知の果実を届けること。それが弊社のミッションです。ご支援をよろしくお願いいたします。

1974年生まれ。ロシア文学者、ロシア語通訳・翻訳者。博士(文学)。ゲンロン代表。早稲田大学非常勤講師。2023年度日本ロシア文学会大賞受賞。著書に『ロシア宇宙主義』(共訳)、『プッシー・ライオットの革命』(監修)、『歌舞伎と革命ロシア』(編著)、『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』(調査・監修)、『瞳孔の中 クルジジャノフスキイ作品集』(共訳)など。展示企画に「メイエルホリドの演劇と生涯:没後70年・復権55年」展(早稲田大学演劇博物館)など。

1971年、東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』、『訂正する力』など。