「ピョートル大帝」を夢見て戦い続けるプーチン大統領の「憎悪の対象」
この戦争を考えるのに不可欠な歴史知識ロシアのプーチン大統領の自らをピョートル大帝に模した発言が話題だ。6月12日の「ロシアの日」の演説で、ロシアの大国化を進めたピョートル大帝にふれ、「軍事的勝利が重要」と訴えた。それ以前にも、ピョートル大帝のように「領土を奪還し、強固にすることは我々の任務だ」と述べていた。
ピョートル大帝といえば、17世紀末から18世紀初頭に、長期にわたる戦争を主導して、ロシアの領地を大幅に拡大した人物である。バルト海へのアクセスを求めて、スウェーデンとの間で大北方戦争を行った。現在のウクライナ領に面した黒海の内海であるアゾフ海に最初にロシア軍を進めたのも、ピョートル大帝だ。
プーチン大統領の拡張主義の野心は、特に最近になって生まれたものではない。ロシア・ウクライナ戦争の最中なので、ニュースになっただけだろう。もっとも、「悪いのはNATOを拡大させてロシアを追い詰めたアメリカだ」、とプーチン大統領を擁護し続けている反米主義者の方々が、プーチン大統領のこうした野心を、どのように擁護するのかは気になる。
反米主義者のプーチン擁護論の滑稽さ
反米主義者の方々は、プーチン大統領はアメリカに冷たくされて仕方なく冒険的な行動に出てしまった、と頑なに主張する。
しかし実際には、まずピョートル大帝に憧れるプーチン大統領がいて、チェチェン紛争、ジョージアの南オセチア紛争、さらにはシリア、リビア、サヘル地域のアフリカ諸国への介入がある。プーチン大統領がNATOの拡大に反発するのは、NATOがロシアを攻めようとしているからではなく、NATOがロシアの拡張政策の邪魔だからだ。プーチン大統領の心の中にロシアの拡張政策を当然視する思想があるからこそ、立ちはだかるNATOに怒っているのである。
NATO拡大は、ロシアの歴史的な拡張主義をふまえて、力の真空地帯となった東欧諸国に安全保障の傘をかける措置であった。それでもNATO側は、ロシアを気遣って、ウクライナやジョージアなどの旧ソ連構成地域の諸国については、加盟承認を見合わせていた。そこをついて、ウクライナを、自国の「勢力圏」として確定させるために、プーチン大統領は侵略行動に及んだ。ロシアへの気遣いで拡大が不十分になった結果、侵略対象となってしまったウクライナは、不憫である。
NATO拡大は、プーチン大統領を侵略に走らせた原因ではない。プーチン大統領が夢見ているロシアの拡張政策から東欧諸国を守るための対応策である。反米主義者の方々の主張は、原因と結果が逆さまである。