今国会で「LGBT新法」が議員立法で提出される予定だった。しかし、法案の目的や基本理念に示された「差別は許されない」という文言などに自民党の一部議員が反発。法案提出が見送られた。
明日、今国会が会期末を迎える。自民党が提案した法案は明らかに不十分な内容だが、それでも「あった方が良い」と野党は若干の修正によって苦汁を飲んで合意し、さらには自民党内でも賛成議員が多かったにもかかわらず、自民党が自ら法案を潰すという結果になった。
さらにその議論の最中には、自民党議員による差別的な発言があったが、謝罪や撤回等の対応はなされていない。
東京五輪の開催が強行されようとしているが、東京大会で掲げられた「多様性と調和」というコンセプトの空虚さが際立つ。
なぜ法案は今国会提出に至らなかったのか。「LGBT新法」をめぐる動きについて、超党派LGBT議連が発足した6年前にさかのぼって、この間の議論の経緯を振り返りたい。
「LGBTブーム」と「東京五輪」
2015年3月に超党派の国会議員による「LGBTに関する課題を考える議員連盟(通称:超党派LGBT議連)」が発足。自民党・馳浩議員が会長となり、性的マイノリティをめぐる法整備について議論が始まった。同年には、性的マイノリティ関連の市民団体の全国組織「LGBT法連合会」も設立。50以上(設立当時)の賛同団体とともに、超党派LGBT議連に対し「LGBT差別禁止法」の制定を求めて活動を開始した。
背景には、いわゆる「LGBTブーム」と言われることもある、2010年代の経済誌での「LGBT」特集や渋谷区・世田谷区でのパートナーシップ制度導入などによる「LGBT」をめぐる報道の増加や、社会的な注目度の高まりがあるだろう。
そしてもう一つ、大きなきっかけとなったのが「東京2020オリンピック・パラリンピック」だ。
2014年、ソチ五輪の開会式への参加を欧米各国の首脳がボイコットした(当時の安倍首相は参加)。理由は、ロシアがソチ五輪を前に「同性愛宣伝禁止法」を制定したからだ。この事件を受けて、IOCは同年「五輪憲章」を改訂し、根本原則に「性的指向」に基づく差別の禁止を明記した。
2020年の開催国である日本も五輪憲章を守らなければならない。IOCと東京都、JOCの三者による開催都市契約で、日本国政府もこの五輪憲章を遵守することが誓約となっている。東京都は2018年に人権尊重条例を制定し、性的指向や性自認に関する差別的取扱いの禁止を明記した。
国レベルの法案についても、野党は2016年と2018年の二度にわたり「LGBT差別解消法案」を国会に提出したが、自民党は審議に応じなかった。
一方、自民党は2016年に「性的指向・性自認に関する特命委員会(通称:LGBT特命委員会)」を独自に設立。「LGBT理解増進法案」の概要を取りまとめたと発表した。
自民党特命委に対しては、性的マイノリティ関連団体として「LGBT理解増進会」が作られ、代表理事の繁内幸治氏がアドバイザーとして就任。同会の顧問には、自民党特命委の議員が並び、理事には、博報堂DYグループの株式会社LGBT総合研究所・森永貴彦代表取締役社長、株式会社LITALICOの長谷川敦弥代表取締役社長などが名を連ねていた(現在は長谷川氏の名前はWEBサイトから削除されている)。
自民党LGBT特命委員会委員長(当時)の古屋圭司議員は、自身のブログでも「一部野党が主張する差別禁止法とは一線を画した理解増進法」、さらには「攻撃こそ最大の防御なり」と記載しており、野党の求める差別解消法案に否定的であることを強調している。
理由の一つに「同性婚」への強固な反対があるだろう。自民党のLGBTに関する考え方のパンフレットには「同性婚容認は相容れません」「パートナーシップ制度についても慎重な検討が必要」と記載されている。
性的指向に関する差別的取扱いを禁止すると、異性カップルと同性カップルで取扱いが異なることが「差別」となり、同性婚の容認へと繋がることを強く危惧していると言える。