「私が体験したことは、ネットで『モラハラを受けた』と書いている方の経験のように酷くはないし、私の思い過ごしかもしれないけれど…」
「モラハラ」という言葉に出会い、「私の経験はそんなに酷くないけど、もしかすると私の夫もモラハラかも…」と当カウンセリングルームに相談に訪れる方は少なくありません。しかし、そうした方が「酷くない」と表現したその内容が、まさに「静かなモラルハラスメント」であることが実はとても多いのです。
何日も無視される
カウンセラーは守秘義務があります。安心して利用していただくためにも、個別のケースについては一切述べられませんが、いくつかのケースを合わせて例をあげてみます。こうした経験に思い当たる節がある方は要注意です。
結婚して10年。夫、子供と三人で暮らしているA子さんは自分がモラハラの被害者だとは思っていませんでした。夫はとても賢くて、冷静で、そして論理的に物事を説明する人だと彼女は話します。
なので、口では夫に敵いません。夫に自分の意見を伝えようとすると「最後まで話しを聞けないのか。そんなことだから君は成長しないんだ」と怒られてしまいます。夫は何時間でも叱り続けることができるタイプ。そんな彼の言葉を、口を挟めずにずっと聞いています。
夫が話し終える頃、自分が言いたかったことは何だったのかわからなくなってしまっていると彼女は話します。たまに彼女の意見を伝えられたとしても、夫はため息を返したり、無視して自分の意見を言い続けたりします。
夫がなにか気に入らないことがあると、しばらく無視されます。無視は何日も続くことがあり、それが嫌で、結局彼が機嫌をなおすであろう行動を取っている自分に気づくとA子さんは話します。「いつしか彼の顔色ばかりを窺っている自分がいます。なんとか日常の平穏を保ちたいので」と。
A子さんはこう続けます。
「しかし、以前は機嫌を損ねなかったことでも、別の日には同じことで機嫌を悪くして口を聞かなくなったりします。彼が前に言っていたとおりに行動しても、やはり不機嫌になることもあって、『前はこうするように言われた』と伝えると、『私の言ったとおりにしてばかりだね。自分で考えられないのか』と言います。
だからといって私が自分で考えたことをすれば、『気に入らない』とばかりにため息を付いたり不機嫌になったりするんです。不機嫌なときは何をしてもおさまらないとなんとなくわかっていても、彼のその様子が怖くて、なんとか機嫌を取ろうと必死になってしまう」