米朝会談決裂に日本はどんな評価を下すべきか...ひとつの答え

これは歴史の転換点となるかもしれない

 日本にとっての最悪のシナリオとは

世界が注目した「米朝ハノイ首脳会談」は最終的に決裂し、合意文書を発表できないまま終わった。

これは大方の予想外だったが、アメリカは今後は北朝鮮の出方を見極めればよい一方で、北朝鮮はどのように再交渉に望むのかの道が見えないことを含めて、苦しい状況に追い詰められたと言えるだろう。そして、安易な妥協がなかったことは日本にとっては好都合だが、仲介役を自認し、朝鮮の代理人に徹してきた韓国はさぞ落胆したことだろう。

交渉決裂後、トランプ大統領が記者会見をし、その後深夜になって北朝鮮外相が記者会見を行った。そこで北朝鮮外相は「すべての経済制裁解除を北朝鮮が要望したのではない」と反論したが、トランプ大統領は記者会見で「北朝鮮の提示する非核化案が不十分だった」と言い、アメリカにとって満足のいくものではなかったことを主張している。

これらを合わせると全体が読めてくる。

米朝双方が持ち出したのは「一部非核化」と「一部経済制裁解除」。これで決着を拒んだのがアメリカ、望んだのが北朝鮮だった。こういう難易度の高い交渉の場合、一般的に交渉をまとめたいほうが不利となる。トランプ大統領は「交渉はいつでも席を蹴る覚悟で行う」と繰り返し言っており、今回はトランプ大統領の真骨頂が出た形だ。

つまり、北朝鮮はなるべく早く交渉をまとめて、一部経済制裁の解除を進めてほしいと思っていた。ということは、経済制裁が機能しているということだ。トランプ率いるアメリカは、相手が苦しんでいる以上、このままの状態を維持したほうがさらにアメリカにとっては有利になると睨んで席を蹴った、と筆者はみている。

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首脳会談後のいろいろな情報から、トランプ大統領自身は交渉をまとめたかったが、まわりの側近が「安易な妥協はしないほうがいい」と言ったと伝えられている。確かにそうかもしれないが、一方で、トランプ大統領なら周りの意見を聞かず、自分の決断でまとめることもできたはずだ。

トランプ大統領は首脳会談より前に、安倍総理とも意見をすりあわせていたが、安倍総理も安易な妥協をするよりは「進展なし」を望んでいたと思われる。というのは、安易な妥協は、北朝鮮の不完全な非核化を認めることになり、これは日本にとっては致命的に痛い話だからだ。

日本にとって最悪のシナリオは「北朝鮮はアメリカ領土に到達する核兵器を廃棄するが、それ以外の縛りはナシ」という状況だ。

中距離核兵器については、最近、米ロの協定が破棄された。米ロだけが協定を維持していても結局意味がないためで、少なくとも米ロ中で新たな合意策でも練られればいいのだが、そうした兆候はない。このような世界情勢では、北朝鮮の中距離核だけを規制するのは難しい、というところだろう。

ここで、北朝鮮の核兵器開発がどこまで進んでいるかという点がポイントになる。日本に届く中距離ミサイルがあるとしても、搭載できる核兵器(核弾頭)がある場合とない場合では、脅威の差はまったく違ってくる。

そこで、昨年12月18日に閣議決定された「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱」(http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/2019/pdf/20181218.pdf)を見てみると、北朝鮮について「核兵器の小型化・弾頭化を既に実現しているとみられる」と書かれている。

書き方は「みられる」と第三者の装いであるが、元官僚の筆者から見れば、この表現は、政府としては「北朝鮮が核兵器をもっている」と断言しているのに等しい。

というわけで、やはり北朝鮮の不完全な非核化は、日本にとってかなりの脅威となるのである。

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