中途半端なスタンス
現在、各国の首脳や外交・安全保障関係者をまきこんで、6月12日の米朝首脳会談実現に向けてギリギリの調整が行われている最中である。
昨年来、トランプ大統領は、北朝鮮に対し、「完全非核化を実行する意思がないのであれば、軍事行動もやむなし」という強硬的なスタンスをとってきた。そのため、今年の初め頃までは、米国の北朝鮮に対する軍事行動がほぼ確実であるという見方が大多数であった。
だが、2月に韓国で開催された平昌オリンピックをきっかけに、北朝鮮と韓国の宥和ムードが広がると状況は一変した。そして、3月末の電撃的な中朝首脳会談実現によって、表向きは中国が北朝鮮の非核化の後見人になる構図が明確になってくると、立場の好転で調子に乗りすぎたのか、北朝鮮は突然、米国に対し、強硬的な姿勢をとり始めた。
そういう経緯の下、5月24日にトランプ大統領は「米朝首脳会談中止宣言」を行った。そして、この宣言は、当事者の北朝鮮だけではなく、周辺国をも慌てさせている。
北朝鮮情勢を巡る一連の流れの中で、その立ち位置を大きく変えたのが韓国である。この情勢の構図を「米日を中心とする陣営vs.中朝を中心とする陣営」とするならば、本来であれば、韓国は、前者(米日陣営)に入るはずである。
だが、これまでの両陣営の駆け引きの中で、(「朝鮮統一」という特別な悲願があるにしても)韓国は明らかに後者(中朝)の利益に沿った行動をとっているようにみえる。韓国側からみれば、韓国が両陣営の仲介役を担っているつもりなのであろうが、現段階では攪乱要因にしかなっていない。
これは文在寅大統領の政治的な信条によるところが大きいと思われる。文大統領は、元々は「人権派の弁護士」として民主化運動にも参加していた。日本でいえば、「左派」、もしくは「リベラル系」の政治家ということであろうか。そして、基本的には、金大中元大統領の「太陽政策(北朝鮮との宥和政策)」を支持している。
韓国は、「THAAD(高高度防衛ミサイル)」の配備問題で中国から制裁を受けている。この中国からの制裁は例えば、中国からの観光客の激減などで経済的にも少なからぬ影響を受けている。したがって、文大統領は少しでも中国寄りのスタンスを示して中国に制裁を解除してほしいという思惑もあるのだろう。
だが、その行動は明らかに米中の間で板ばさみ状態で、かえって米国からの信頼が低下し、国際政治の場では孤立を深めているようにみえる。
このように、韓国は、政治的には明確なスタンスが定まらず、中途半端な停滞状況に陥っているのだが、経済的にも、中途半端に「リベラル的」な政策が採用されつつあることで「低成長の罠」に嵌りつつあると考える。
文在寅政権の経済政策
現在の韓国経済の状況だが、1-3月期の実質GDP成長率は前期比で+1.1%で、昨年10-12月期の-0.2%から改善した。輸出と設備投資、及び建設投資が改善を牽引したのだが、輸出については10-12月期の反動増という側面が強く、平準化すると輸出はトレンドとしてはむしろ減速傾向を強めている。
その韓国の輸出だが、ほぼ「半導体関連」のみが好調である。簡単にいえば、サムスン電子とその周辺企業への一極集中という構図である。他の品目は全般的にさえない。そして、その半導体も、今年に入ってから中国での需要が一服した関係で伸びが鈍化しており、先行きは決して明るくない。
また、1-3月期の設備投資も、その「半導体関連」の投資の拡大によって伸びた。従って、今後の世界の半導体需要次第では急激に減少する懸念もある。
そして、残る建設投資の増加だが、これは文政権の経済政策に大きく関連しているので、先に文政権の経済政策について言及することにする。