2017年に国民的ヒットが出なかった理由と2018年に起こること

エンタメ界の空気が大きく変わっている
「国民的ヒット曲」がなかった2017年の日本の音楽シーン。2018年は国内外で何が起こるのか? 『小沢健二の帰還』著者の宇野維正さんと『ヒットの崩壊』著者の柴那典さんが音楽、映画、テレビ、芸能界、東京五輪……「2018年の展望」を縦横に語り尽くす。
(左)宇野維正さん、(右)柴那典さん(写真・岩本良介)

2017年、日本で起きていたこと

 今回は2018年の音楽やエンタテインメントがどうなっていくかを語り合おうと思うんですが、まず宇野さんは昨年をどう振り返っていますか?

宇野 海外と日本では状況が全く違うよね。どっちから話をしようか。

 まず日本の音楽シーンの話をしましょうか。以前にもコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53891)に書きましたが、2016年にリリースされた星野源の「恋」が2017年も最大のヒット曲になりました。

宇野 そのことが象徴的だけれど、2016年って異例なほど日本で多くのヒット曲が生まれた年だったよね。その勢いのまま2017年も沢山のヒットが生まれるのかと思いきや、まったくそんなことはなかった。それは音楽だけでなく映画でもそうで。

 映画に関してはどうだったんですか?

宇野 若年層の観客に向けたコミック原作の実写映画はほぼ壊滅的だった。興収20億円がメジャー配給作品のヒットの基準とすると、それを超えたのは『銀魂』だけ。

あと、少ない製作費で高収益を見込めることでここ数年ずっと量産されてきた女子中高生向け映画も、ヒットしたのはラノベが原作の『君の膵臓をたべたい』くらい。

1年前の『君の名は。』と同時期に同規模で公開された『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』も惨敗。

 DAOKO×米津玄師の「打上花火」はヒットしましたね。

宇野 そう。あれは映画がヒットしなかったのに主題歌がめちゃくちゃ売れた珍しいケース。ダウンロード系のチャートでは夏以降ずっとトップ3をキープしていた。

 「打上花火」はビルボードジャパンの年間チャートでも3位でした。映画がヒットしたらこの曲は世代を超えた国民的ヒット曲になったかもしれなかった。

宇野 ホントそう。映画の評価と切り離してもっと広がってもいい、現代のポップスとして完璧な曲だった。2017年の紅白に何が足りなかったって、「打上花火」でしょう。

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は、『君の名は。』と同じようなものを期待して観にいった人が失望したことによって、必要以上にバッシングされたところもあった。

そういう2016年の反動がいろんなところで起こっていたのが、2017年だったのかもしれない。

 

 結局、年末からお正月にかけてのテレビでも『逃げるは恥だが役に立つ』の再放送と『君の名は。』の地上波初放映が注目されてましたね。やっぱり2016年を引きずっている。

宇野 『カルテット』のように、1年を通して人々から語られ続けた作品はあったけどね。でも、そういう作品が、必ずしも世間的にヒット作とならない時代になってきている。そう考えると、「恋」の持続力はすごいことだよね。

 もちろん「恋」のロングヒットにポジティブな側面もあるとは思うんです。今の時代は、あれだけのパワーを持った曲であれば、すぐに消費されて飽きられず、一つの曲が1年以上にわたって影響力を持ち続けることができるということも言える。けれど逆に言えば誰もあの曲を超えられなかったとも言える。

宇野 でも、星野源自身は周到に「恋」のイメージをちゃんと更新していった。2017年、星野源は音楽作品としてはシングルの「Family Song」しか出してないんだけど、年を越えても終わる気配のない「恋」の狂騒からは慎重に距離をとっていた。

 星野源が2018年にどう動くかは大きなポイントだと思います。

宇野 星野源がすごいのは、日本の音楽シーンのど真ん中の役割を引き受けつつも、ラジオでチャンス・ザ・ラッパーやアジズ・アンサリ(アメリカのインド系コメディアン。ドラマ『マスター・オブ・ゼロ』のクリエイター兼主演)に言及するなど、同時代の海外カルチャーの重要な動きにも常に目配せが効いているところ。

そこが見えているのと見えていないのとでは、今はまだ現象面ではそこまで出ていないけれど、数年後に圧倒的な差が生まれてくると自分は思ってる。

 星野源だけじゃなく、いろんなアーティストやクリエイターに言えることでしょうね。それは日本においてもということですか?

宇野 うん。ここまで世界中のカルチャー全体が変革しているわけだから、その大きな波は時間差があっても必ず日本にも押し寄せてくるはず。

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