パリ協定から抜けようが、抜けまいが…
11月6日、ドイツのボンで23回目の気候変動会議、COP23が始まった。期間は12日間。
ボンは東西ドイツ統一の前は西ドイツの首都だったが、こぢんまりした町なので、「首都」ではなく、「首村」といわれていた。そこに今、世界中から3万人もの人間が来ている。NGOだけでも500グループ、ジャーナリストが1000人以上。ボンはおそらくかなりごった返しているはずだ。
今年のCOPは、南太平洋に浮かぶ島国、フィジー共和国が、ドイツと並んでCOPの開催国となっている。なぜかというと、この島がもうすぐ海に沈むかもしれないからだそうだ。
フィジーが沈むのを止めるためには、石炭、とくに褐炭の火力発電所を即刻止めろ!というのが、環境保護活動家たちの主張だ。その運動に、昨今はプロテスタント教会までが加わっている。ドイツの教会は、このごろ何だか政党のようになってきた。
COP開催前の11月4日、何千人もの活動家がボンで石炭火力反対のデモをした。そのうちの100人近くは、ハンバッハという褐炭の露天掘りをしている敷地に不法侵入。ドイツが発電に未だに褐炭(品質が劣るためCO2を多く排出する)を使っていることに対する抗議だ。
もちろん警察が止めたが、なぜかドイツでは、その違法行為があたかも正義のように報道される。右翼が他人の会社の敷地に忍び込んで暴力を働けば、極右と言われて吊るし上げを食うだろうに、左翼の場合はあくまでも「活動家の勇み足」で済むのが不思議といえば不思議。
一方、ボンのデモの方も派手なパフォーマンスが満載だった。地球儀の模型の上に乗っているのは、煤で顔が真っ黒になったメルケル首相のお人形。現在、ドイツの発電の燃料は、石炭と褐炭が45%で最大のポジションを占める。
その他、煙がもくもくと吹き出す松明を掲げた自由の女神。これはもちろん、去年のCOPで決まったパリ協定から降りようとしているアメリカへの批判。また、「Trump: Climate Genocide(トランプ: 気候ジェノサイド)」というプラカードもあった。ジェノサイドとは、ドイツのホロコーストのような、一民族を滅ぼすほどの大量殺戮の意味だ。いくら何でもおかしくないか?
パリ協定から抜けようが、抜けまいが、アメリカのCO2の排出量がこれから劇的に増えることは考えにくい。しかし、途上国の場合は規制が緩く定められているため、CO2を増やしても目標値は守れる。
たとえば、世界で一番大気汚染のひどい都市を抱えるインドは、将来まだ火力発電所を現在の2倍に増やせるし、世界第2の経済大国である中国も、途上国扱いなので、2030年まではCO2を増やしても違反にならない。
なのに、ドイツの第一テレビでは5日、「トランプは気候に関しては、シリアの独裁者アサド大統領と、不倶戴天の敵ニカラグアとともに、情けない三頭政治を形成している」と言う。確かに現在、内戦でそれどころではないシリアと、反米で有名なニカラグアはパリ協定に参加していないが、後者が不参加の理由は、より厳しい環境規制を求めているからだとか。
ちなみに、先進国で目標値達成が困難になっている国は、原発をほぼ止めている日本と、これから全部止めようとしているドイツだ。