ほんとうの情報はいったいどこにあるのだろう。
一昔前に比べると、情報へのアクセスは格段に楽になった。宇宙の不思議も深海の世界もネットにアクセスすれば一発である。
しかし言うまでもなく、アクセスの自由さと、正しさの度合いは比例しない。
イギリスのEU脱退、トランプ大統領の就任によって流行した言葉は、ポスト・トゥルースであった。事実よりも、個人の感情や信条が世論を形成する様を指す。
大量の情報の中で自分にとって心地よい、都合のいい情報をつなぎ合わせると、それらしいものが出来上がる。それらしいものと「ほんとう」を区別するのは思った以上に困難だ。
これは科学の世界でも同様である。昨年来のDeNAの医療サイト「WELQ」問題からも明らかなように、断片的な情報が、わかりやすく、心地よい形に継ぎあわされて拡散されると、科学的な裏付けのある情報に見えてくる。
医療の世界にもポスト・トゥルースは存在する。
私はこれまで糖質制限は人類の健康食であるという主張や、やせたいのならご飯を食べろといった主張を契機に、2回に渡り、すでに社会に定着した糖質制限という現象を分析してきた。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49908
・白米を食べるとやせる!? バブル期に誕生した真逆ダイエットとは
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50738
したがって第3回目は糖質制限における科学論文の使われ方という点に着目し、議論を展開したい。糖質制限にポスト・トゥルースはあるだろうか?
日本人への糖質制限の有効性は科学的に実証済み?
まずは下記の提言に目を通してほしい。日本人への糖質制限を強力に推奨する医師が一般向けに書いた本からの抜粋である[1]。
2014年、私たちはエビデンスレベル1である無作為比較試験のデータを出し、日本人での糖質制限の有効性を示しました。 これによって2014年以降 は、日本でも糖質制限を批判することの根拠はなくなりました。
その上、2014年と2015年 には、エビデンスレベル2の観察研究で、 日本人では糖質摂取の少ない人のほうが糖尿病の発症が少なく、 死亡率が低いというデータが揃ってきています。従って、 現時点で日本人に対する糖質制限は、 エビデンスレベル1およびエビデンスレベル2で支持されているわけです。
これを批判することは科学的根拠を無視した医療、 すなわち非科学医療につながることでしょう1。
「エビデンス」とは科学的根拠のこと、一方「エビデンスレベル」とは根拠の度合いであり、1がもっとも信頼度が高いとされる。
つまり著者である医師は、もっとも信頼度の高い研究法において糖質制限の効果が確認され、さらにその次に信頼度の高い研究2つにおいても同様の結果がでたのだから、日本人に対する糖質制限の有効性を批判することは非科学的と言っているのである。
これを読んであなたはどう考えるだろう。日本人に対する糖質制限の有効性を批判するのは、科学のイロハを知らない素人という印象を持っただろうか。