ドイツの政治地図は千変万化。去年、土俵際まで追い詰められたかのように見えたメルケル首相(CDU・キリスト教民主同盟)が、今、不死鳥のごとく蘇り、再び、ドイツどころか、EUの中心に君臨しそうな勢いだ。CDUは現在、極めて磐石。国母メルケルは、押しても引いても揺らがない。
一方、SPD(社民党)は、急上昇したかと思いきや、突然、再び急降下。9月の総選挙まであと4ヵ月あまりというのに、もうどうにもならない落ちぶれ方となっている。
SPDにいったい何が起こったのか
かつてのSPDは、名首相ヴィリー・ブラントやヘルムート・シュミットを生んだ誉れ高き国民政党だった。ところがここ数年はメルケル首相の陰でうだつが上がらず、支持率は20%近くまで落ち込んでいた。
2年前の5月には、「次期の総選挙でメルケル首相と戦っても勝ち目がないので、対抗馬を立てるのはやめてはどうか」と言い出して、ひんしゅくを買ったSPD議員もいたほどだ。
そこで困ったSPDは、党首の入れ替えを宣言した。不人気だったガブリエル氏に党首の座を降りてもらい、EU議会の議長を務めていたマーティン・シュルツ氏を担ぎ出した。気分一新、新党首で9月の総選挙に臨もうとしたわけだ。

この決定により、SPDの人気は急上昇し始めた。死に体だったSPDの支持率はメキメキ上がり、すでに2月6日の世論調査でCDUを越えた。新規入党者も殺到し、それどころか、「メルケルとシュルツ、どちらを首相にしたいか?」という問いでは、シュルツ氏がメルケル氏を凌いだのである。巷ではこれを「シュルツ効果」と呼んだ。
シュルツ氏がSPDの臨時党大会で正式に党首に選ばれたのが3月19日。上昇気流で自信を取り戻しつつあったSPD議員は、シュルツ氏にすべてをかけたらしく、シュルツ氏の得票率は前代未聞の100%。まるで独裁政権下の投票だ。感極まったシュルツ氏は目に涙、SPDの議員たちも、全員が自己陶酔に陥った。
ところが信じられないことに、この後、あっという間に息切れが起こった。
3月26日に行われたザールランド州の州議会選挙で、SPDはCDUに敗北。この頃、シュルツ効果という風船は早くもしぼみ始めていたのだ。
それでも、シュルツ氏とSPD幹部は現実を見ず、この敗北はザールランド州の問題であるとして片付けた。ただ実際には、シュルツ氏はその後、「運はボールに似ている。再び落ちるために上がる」というドイツの諺を地でいくことになる。

1ヵ月前には「世論調査はシュルツ効果を証明!」と煽ったニュースの見出しが、「シュルツ効果の空気漏れ」に変わり、そのうち「シュルツ効果とは何だったのか?」に変わった。
そして、5月7日。フランスの大統領決勝戦の陰に隠れるように、ドイツ北部のシュレスヴィヒ−ホルシュタイン州の州議会選挙が行われた。シュルツ氏の応援にもかかわらず、ここでもSPDが大幅に票を減らし、CDUの勝利で終わった。