ドイツメディアのトルコ叩き
トルコとドイツの関係が危うい。
最初の原因は、3月に北ドイツ放送(国営の第1テレビARDの傘下)で放映された風刺歌だった。トルコのエルドアン大統領をからかった歌で、各フレーズの最後に「エルドーヴィー、エルドーヴォー、エルドーアーン!」というリフレインが入る。
歌の背景には実際のニュースの映像、たとえばトルコ警察がデモの参加者をボコボコに殴っているシーンや、シリアでトルコ空軍がクルド人を攻撃しているシーンなどが流れる。そして、エルドアン大統領のキンキン声も。彼は一時、選挙戦で咽喉を傷め、大切な演説でキンキン声しか出せなかった時期があったのだ。
映像の最後では、エルドアン大統領が何かのイベントで暴れ馬から落馬し、それと同時に歌も終わる。
この歌にトルコ政府が噛み付いた。アンカラで外務省が、ドイツ大使を呼び出して抗議した。呼びつけられたドイツ大使は、メルケル首相が風刺された絵を持参したという。しかし、トルコ人に、風刺画とは何かを説明する気だったのだとしたら、勘違いも甚だしい。自国の首相を風刺するのと、他国の元首をからかうのでは話が違う。
ところが、このトルコ政府の抗議に、今度はドイツのメディアが反発した。「トルコには報道の自由がない」、「トルコの恥知らずの行動」、「ドイツは民主主義国なのだ」といった上から目線の記事から、エルドアン大統領を「ユーモアがわからない男」と皮肉ったものまでトルコ攻撃の満艦飾。「ドイツに住むトルコ人たちは、トルコ政府の反応を過剰だと思っている」と主張したメディアもあった。
しかし私には、この歌を聴いてドイツ人とともに笑ったトルコ人がいたとは思えない。彼らはプライドの高い人たちなのだ。エルドアン氏の支持者であろうが、なかろうが、この歌を聴けば気分を害するはずだ。
いったいどんなトルコ人にインタビューしたのだろう。生粋の反エルドアン勢力か、あるいはクルド人? もしもドイツで日本の首相をからかったこんなビデオが出回れば、私だって怒る。
ただ、メディアがトルコ叩きに余念のなかったこのとき、ドイツ政府はそれにあまり加担しなかった。外務大臣が、「EUのパートナー国が、我々と価値観を共有することを期待したい」というような差し障りのないコメントを出したに過ぎない。すると野党がそれを、「ドイツ政府は難民問題の取引でトルコに弱みがあるので及び腰だ」と非難した。