その是非は別として、「できる社員」と「できない社員」を選別する企業が増えている。では、それを根拠にクビを切るのは、はたして許されるのか……。ガチンコ裁判の一部始終をお伝えしよう。
「ある日突然、クビになった」
〈原告らに対する解雇は無効である〉
3月28日に東京地裁で下された判決は、サラリーマンにとって画期的な、そして企業にとって衝撃的なものだった。
「10年ほど前から、日本IBMでは就業規則に『業績が著しく劣っていて改善の見込みがない社員は解雇できる』と明記されるようになりました。
当時、社内は大騒ぎになりましたが、会社側は『これは形式上こう書いてあるだけで、実際に使うことはありませんから』と説明していた。ところが結局は、この文言を利用して、『使えない』と判断した社員を切ろうとしたのです」
こう話すのは、日本IBM労働組合書記長の杉野憲作氏だ。自前の労組を持たない日本IBMの社員は、全日本金属情報機器労働組合(JMIU)内に支部をおいている。
'12年以降、日本IBMではリストラの嵐が吹き荒れてきた。ドイツIBMで大規模な人員削減を断行し、「コストカッター」の異名をとったマーティン・イェッター現会長が社長に就任、米本国の強力なコントロールのもと、指名解雇を始めたのだ。
その流れの中で、今回の訴えを起こした5名の社員も、突如としてクビを切られた。いずれも'12年のことである。
会社が「仕事ができない」と判断した社員を、一方的にクビにしてよいのか否か——企業にとっても社員にとっても、お互い「死活問題」と言うべきこの命題に、裁判所の判断が下った意味は大きい。日本経済が縮小し、大企業でさえ先行きの見えない今、誰もが他人事ではないからだ。
では、「クビにしたい会社」と「残りたい社員」の両者は、法廷でどのようなバトルを繰り広げたのか。関係者の証言と裁判資料で、再現しよう。