【ゼロからわかる】危機の震源シリアで何が起きているか〜"参戦"したロシアの思惑から問題の歴史的背景まで
第二次世界大戦後「最大の人道危機」はこうして生まれた
内戦で破壊されたシリアの街〔photo〕gettyimages
「地獄からの出口」が見えない
パリ同時多発テロの大惨事を受け、犯行声明を出した過激組織「イスラム国」(IS)が拠点とするシリア情勢に注目が集まっている。
急速に脅威のレベルを増すISへの対応では国際社会が大同団結すべきだが、現実は、アサド政権を擁護するか否かで立場を異にする米露の代理戦争の様相を強めているのが実情だ。
また、外交交渉で「地獄からの出口」(ケリー米国務長官)が見えない中、中東で地殻変動が起きていることも見逃せない。英仏両国が第一次世界大戦に伴うオスマン帝国解体に合わせ、地図上に線を引いて中東の分割支配を決めた「サイクス=ピコ協定」体制の溶解である。
グローバル・ジハードの新たな温床となったシリアの実情は、様々な要因が複雑に絡み合い、解くことが容易ではないパズルのように見える。
米露の「チキン・ゲーム」が始まった
シリア内戦は従来、イランなどに支えられ延命を図るアサド政権、米国など有志国連合が支援する反政府組織、国境線を越えてシリアとイラクにまたがる支配地域の拡大を目指すISの三つ巴の戦いで推移してきた。
そこへ、ロシアが9月30日にアサド政権の「後ろ盾」になって“参戦”し、緊迫度が一気に高まったという経緯がある。
米国の戦略を狂わせたのは、ロシアが米国の支援する反政府勢力たたきに出たことだ。米国務省によると、ロシア空爆の9割はISではなく、反政府勢力が標的だという。
米国はロシアの行動を「(シリア内戦の)火に油を注ぐものだ」(カーター国防長官)と批判するが、プーチン大統領は「米国の目的はアサド氏の追放だが、我々の目的はテロとの戦いだ」と意に介さない。穏健な反政府勢力に軍事訓練を行うことで、アサド政権やISと戦わせるという米国の戦略は破綻したも同然になったのである。