
コンピューターのプログラムを使って「面白い小説」を生み出そうという試みがあります。過去のベストセラーをもとに感動の仕組みなどを解き明かせば、人気作品が効率よく出来上がるはずだというものです。果たして小説執筆の機械化は可能なのでしょうか? 取り組みを進める作家・今村友紀さんと、小説には「魂」が必要だという作家・海猫沢めろんさんが徹底討論しました。(*東京新聞夕刊文化面6月2日掲載の記事のロングバージョンです。構成・中村陽子)
売れる小説には、何かしらのパターンがあるはずだ
今村 まず小説解析を始めた理由から話しましょう。私は小説家デビューして4年。何作か本を出しましたがあまり売れず、読者に届いたという達成感もなかった。宣伝をきちんとやらなかったとかいったことは置いておいて、やはり創作の方法論に問題があるのでは、と思ったんです。

実際、世の中にはもっと読まれている小説もある。売れるということは単純な運だけではない。そこに何かしらのパターンがあるなら学習しない手はないし、そのパターンを定式化できないかと考えたんです。
すでに映画脚本術などの本はあり、それはもちろん勉強したけれども、それを数式のレベルまで落とし込めないかと、あくまで実験的にですが取り組みをはじめました。
海猫沢 小説を書く人には、2種類いると思う。メソッドを読んで勉強してから書く人と、天然でやっちゃう人と。僕の感覚だと、男性には前者が多い。小説術の本も、すでにいろいろ出ていますよね。最も有名なのは、ディーン・R・クーンツの『ベストセラー小説の書き方』とかかな。今村さんは、具体的にはどんなことを?
今村 2013年に会社を作り、そこではまず、本をスキャンして、ベストセラー小説数百冊分のテキストをデータ化しました。同時に小説投稿サイトを作り、読者からの投稿を募ることでもデータを収集しました。サイトで一般ユーザーの投稿が4000作くらいあります。それらのデータを使い、小説の特徴と、閲覧数や売上などの関連を調べたわけです。
その後、さらに開発を進めて、言葉の使われ方の特徴をいろいろな角度から抽出できるようプログラムを書いていきました。使われている単語が簡単か難しいか、笑いや怒りなどの感情表現がどのあたりで出ているか。そういった特徴と、読者の人気の関係を分析してみました。