「大阪都構想:住民投票と「特別区」の創設は何を生むか」  (下)

佐々木信夫(中央大学教授)

「大阪都構想:住民投票と「特別区」の創設は何を生むか」(上)より続く

4.特別区の魅力は多くある

 いま東京だけで使われている特別区制度は、昭和50年の区長公選復活までは東京都の内部団体とされていたが、現在は一般の市町村と同じ基礎自治体である。人口が高度に集中し日々変化し続ける大都市東京において、区民が安心して豊かな生活ができるまちを創るために機能している。

 特別区は独自に、また相互に連携して新たな課題にチャレンジし続けている。公選区長、公選議会を有する一般市以上にダイナミズムに富む活動をする特別区だが、意外に知られていないのが、大阪市など政令市の行政区と何が違うのか。同じ「区」という呼び名でも、実は全く違う。

 ここを理解していただくのが、住民投票で特別区を選ぶか、いまのままの行政区(出張所)を選ぶかの分かれ目になる。図示しておこう。

特別区と政令市行政区と全く違う

 

法人格

長の選挙

議会

条例制定権

課税権

特別区

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政令市行政区

×

×(市長が任命)

×

×

×

 つまり行政区は政令市の出張所として自治権は一切ないが、特別区は自治体なので法人格もあり、公選の長、議会がおかれ、立法権に当たる条例制定権も課税権も有する。大阪市の行政区と今度、創設を予定している特別区は全く違うものだ。

 東京でいえば、特別区がある区域は、880万の人々が暮らし、1千万人を超える人々が活動する巨大な大都市地域だ。このため、他の大都市のようにひとつの基礎自治体がこの地域全体を受け持つのではなく、それぞれの特別区が基礎自治の役割を担い、広域自治体である東京都が広域政策、広域行政を担う役割分担の下に、相互に連携しながら東京大都市地域の行政に責任を持つ、独特の大都市制度となっている。

 上下水や地下鉄、バス、消防、港湾、病院などを都が受け持つ一方、都と23区間の財政調整のしくみがあり、特別区に住む880万住民は23区間の財政力の差はあっても、ほぼ均等のサービスを享受できる。住んでいる人々にとって、セフティネットの張られた、安心、安全、生き生きと暮らせる制度となっているところに特徴がある。

 都制度(都区制度)の 魅力は、50万単位で基礎自治を担う特別区を設置し、広域行政、広域政策は都に一本化するという点にある。とくに特別区の住民にとっては「自治の原則」と 「均衡の原則」を同時に実現できる点が優れている。一方、広域自治体である都にとっては、都政として大都市の一体性を確保した戦略的な都市経営ができるという点である。

 今、大阪市の住民の方々は、特別区の設置について賛否を求められているので、特別区についてその魅力を述べてみたい。先行例となっている東京の例を紹介することで、そのイメージを形成して戴きたい。

 東京の特別区、いわゆる23区では、880万の人々が暮し、昼間は1200万人もの人々が活動しているが、この巨大な大都市地域に集まる人口や産業を対象とする大都市行政は、各特別区が個性を発揮しながらも、全体として円滑に行われる必要がある。このため特別区は、相互に連携・協力しながら、様々な行政課題に取り組んでいる。

  特別区は、区民に最も身近な基礎自治体であるが、地方分権が推進され、地方自治体はこれまで以上に自らの判断で、地域ニーズに応じた個性的な施策を展開することが可能となっている。特別区も、互いに競い合いながら地域特性を生かした様々な行政活動をし、他の区よりより優れた低い コストのサービスを実現しようと競い合っている。公選制のよさが遺憾なく発揮されているのが、特別区制度である。

 大阪が都制度(都区制度)になれば、これまで大阪市に1つしかなかった教育委員会が5つできるし、府の機関であった児童相談所が5つでき、保健所も5つになる。府費負担教員(市の公立学 校教員)の人事権も特別区に移る。何よりもより細かなエリアに予算編成権が来るのである。条例制定権と予算編成権が5つの特別区ができることで生まれる。

 大規模地域計画は大阪都の権限となるが、それをやるやらないは、これまでの府市の争いではなく、都知事選挙でやるやらないを決めた方がはっきりする。それを可能とするのが都制度である。さらに進めることだけなく、やらないことをスピーディーに決めるのも重要ではないか。

 特別区に限らず、いまや各自治体は創意工夫しながら、住民福祉の向上を競う時代である。その中で、福祉や医療をはじめ、子育て・教育・災害対策など大都市地域特有 の課題に挑戦していかなければならない。

 東京をみると、その課題解決に向けて、特別区は互いに連携・協力をしつつも、時にはよきライバルとして競い合いながら、時代を先取りした施策に果敢に取り組み、区民の期待に応えようと頑張っている。

 そこで働く公務員も、わが区を他の区に負けないまちにしようと、前例 や待ち受ける困難な状況を打ち破り、新たなものをつくろうと張り切って仕事に打ち込んでいる。この姿を見たとき、大市役所の出先である区に配置された職員と全く違う顔を見ることができる。人間、権限と責任を負ったとき真剣勝負をする。

 自治体も同じではないか。大組織に埋没し、歯車の一つとしか意識しないも のと違って、中小規模で労働の成果を自ら確かめ、顧客である住民に喜んでもらおうとプロ意識を高めていくのである。

  こうして、特別区は相互の切磋琢磨の中で地域として発展していくのである。水平的競争メカニズムが働く、いわゆる善政競争によって住民を主役に各区が競うように走り出している、それが今日の東京特別区である。大阪もそうなって欲しいと筆者は願う。

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