【第69回】 今後のアベノミクスを考えるために、第一次安倍内閣での成長論争を振り返る!
明確な決着がつかないまま終わった成長論争
12月14日の衆議院選が間近に迫ってきた。本連載は、世界経済についての考察をおこなうものであるが、筆者は今回の衆院選で与党が勝利し、安倍政権の長期政権化の展望が見えた場合、来年は久々に日本の株式市場が世界の投資家の注目を浴びる可能性が出てくると考えている。そこで、来年のアベノミクスについての筆者の考えを述べたい。
筆者は、今後のアベノミクスを考える際には、第一次安倍内閣(2006年9月26日~2007年8月27日)での成長論争を振り返る必要があると考える。
この成長論争とは、財政再建にあたって、税収の自然増をはかるために名目成長率を引き上げる政策(当時は「上げ潮政策」と呼ばれた)を採用すべきか、それとも、成長をあきらめて、増税を先行させるべきか、を巡る論争であった。当時の経済財政諮問会議では、竹中平蔵氏が前者、与謝野馨氏(吉川洋東大大学院教授)が後者の代表として激しい論戦が繰り広げられた。
この論争は、名目経済成長率と国債利回りの関係に問題が集約される。すなわち、前者では、名目成長率が国債利回りを上回る状況が長期間維持できれば、税収の自然増によって、ある程度の財政再建(プライマリーバランスの改善)が実現できると考える。この場合、増税の是非は、この状況(名目成長率>国債利回り)をしばらく続けた結果、どの程度、財政状況が改善したかを見たうえで判断しても遅くはないと主張する。
一方、後者では、少子高齢化などの要因で日本経済は名目成長率はゼロ(場合によってはマイナス)まで低下しており、これを人為的に底上げすることはもはや不可能であると考える。よって、将来の社会保障に対する不安や財政再建のためには、増税は不可避であり、先送りすればするほど、財政問題はより深刻化すると考える。
この成長論争は、第一次安倍政権の終焉によって、明確な決着がつかないまま終わったが、安倍政権に続く福田、麻生、そして、民主党政権では、後者の代表格である与謝野馨氏が経済政策に大きな影響力を持つことになったため、経済成長をあきらめ、一刻も早い増税を追求するスタンスが強まった(実際にはリーマンショックによる世界的な経済危機で増税どころではなくなったが)。