2014.10.06
# 年金

「普通のサラリーマン」だった私は、定年からたった10年で破産した

16人に1人が直面する老後破産

長生きなんか、するんじゃなかった――。人生の最期を悲惨な状態で迎える人がいま急増している。なぜ、どのようにして人は破産してしまうのか。厳しい老後破産の現実はあなたも無関係ではない。

妻の病をきっかけに

「なんでこんなつらい思いをしてまで、長生きしなきゃいけないんでしょうか」

着古したジャージに身を包んだ香川庄治さん(仮名/71歳)は、嗄れた声を絞り出し、こうつぶやく。6年前に妻を亡くしてから、神奈川県の自宅でひとり「亡骸」のような日々を送っているという。

「家事は妻に任せきりにしていましたから、彼女が亡くなってからも自分で炊事することはありません。食事は日に一食。夜にスーパーで半額になる弁当を買うか、チェーン店の牛丼を食べに行くのが日課です。近所付き合いもないですし、毎日することは何もない。家に閉じこもり、テレビを眺めて一日が過ぎていきます。こんな惨めな生活をしているなんて、誰にも言えません。親戚にだって、無用な心配をかけたくないので、連絡を取らなくなりました」

 

大学を出て、食品メーカーに38年間勤務し、60歳で退職。一人息子は同居している。定年後は、妻と穏やかな老後を送ろう—そう思っていた。当時の貯金は、退職金もあわせて約3200万円。だが現在、貯金は底をついている。

「定年してから半年後、妻にがんが見つかったんです。進行した乳がんでした。手術しましたが、すでに全身に転移してしまっていた。

現役時代、私は家庭を顧みず、すべて妻に任せて働いていました。これからは楽をさせてあげようと思っていたんです。だからこそ、何をしてでも元気になってほしかった。病院を転々とし、最新の放射線治療も受けました。それに漢方や健康食品など、身体にいいと聞いたものは何でも試した。

彼女が自力で歩けなくなってからは、300万円出して車椅子を乗せられるワゴン車を買い、がんに効くと言われる温泉にも連れて行った。けれど結局、闘病の末に亡くなったんです」

妻の命のために、カネを惜しむという選択肢はなかった。がん保険には入っていなかったため、3000万円という貯金額は、6年間でみるみるうちに目減りしていた。気づいたときには、もう「手遅れ」。現在は月14万円の年金だけで生活している。

「実はウチには、40代になる息子がいて、うつ病を患って会社を辞めてから、家に引きこもっているんです。私の年金だけでは暮らしていけない。

少々具合が悪くても、病院にも行けません。検査なんかしたら、絶対悪い病気が見つかるに決まっていますから。毎日、目が覚めるたびに気が重くなります。何度も死のうと考えましたが、息子がいますし、天国の妻がそれを知ったら悲しむだろうと思って、必死で生きている状態です」

悠々自適な老後を送れるはずだったのに、気がつけば、想像だにしない厳しい現実と向き合わざるを得ない。香川さんのように、破産状態に陥る高齢者がいま急増している。

9月28日に放映されたNHKスペシャル『老人漂流社会“老後破産”の現実』では、「生活保護水準以下の収入しかないにもかかわらず、保護を受けていない」破産状態にある高齢者の現状を「老後破産」と呼び、特集を組んだ。番組を制作した板垣淑子プロデューサーが語る。

「少子高齢化が進み、年金の給付水準を引き下げざるを得ない一方、医療や介護の負担は重くなっています。自分の年金だけを頼りに暮らしている独り暮らしの高齢者の中には、崖っぷちでとどまっていた人たちが、崖から転げ落ちてしまう、いわば『老後破産』ともいえる深刻な状況が拡がっています」

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