大口取引先幹部でさえ「破綻」をニュースで知り、怒りに震えた。関係者の信頼を裏切ってまで彼が守ろうとしたのは、きっと己のプライド—。漂う「腐臭」を隠そうとして、迷走劇は幕を開けた。
丸川珠代と浮名を流して
受付には10名以上の社員が一列に並び、訪れる債権者たちに頭を下げながら資料を配る。会場の扉ごとに社員が警備員のように立つ厳戒態勢が敷かれている。東京タワー近くのイベント会場『メルパルクホール』。白元(東京都台東区)の債権者説明会が開催されたのは6月3日のことだ。
開始時刻の14時前から債権者たちが続々と会場入りし、1582席の客席を備えたホールが埋め尽くされていく。この日の最高気温は28・9度。背広を脱いだワイシャツ姿の債権者たちは座席につくと、汗をぬぐう暇もなく、配られたA4判17ページに及ぶ資料に必死に目を走らせる。
次々とため息が漏れた。
「'14年3月期の最終赤字が62億円だなんて。真っ赤な決算を隠して取り引きしていたなんて許せませんよ」(債権者の一人)
出席者によれば、白元の民事再生手続きの申立代理人を務める西村あさひ法律事務所の弁護士が司会を担い、資料の確認、出席者の紹介と淡々と進行していった。「主人公」に出番が回ってきたのは、そんな一通りの事前説明が終わった後、会の開始から約5分が経った時のことである。
「株式会社白元、前代表取締役社長の鎌田真でございます」
事実上の「破綻」騒動後、鎌田氏が表舞台で初めて口を開いた瞬間だった。
白元の前身の鎌田商会が創業したのが1923年。創業者・鎌田泉氏の孫で、'06年4月から4代目社長として白元を率いてきたのが鎌田真氏(47歳)である。
慶應大学経済学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)を経て白元に入社。'98年に米ハーバード大学ビジネススクールでMBAを取得した秀才の御曹司だが、債権者集会ではそんなエリートの輝きは影を潜めた。
「関係者の方々の信頼を著しく損ねた責任を日々痛感しております。申し訳ありませんでした」
右手でマイクを握りしめ、時に左手で持ったペーパーに目を落とす。スーツで小綺麗にきめているが、声は沈んでいる。約2分30秒にわたって謝罪し続けた鎌田氏の表情は、最後までこわばったままだった—。
デビューは華々しかった。