近藤大介 (本誌編集部、『日中「再」逆転』著者)
公害で都市機能がマヒ
「昨年、北京市は前年の2・8倍にあたる1821億元(約3兆1500億円)もの土地を売って、何とか財政を保った。だが今年はもう売る土地も少ない。
地方はさらに深刻だ。昨年末に、地方債は10兆元(約173兆円)にのぼると政府が発表したが、実際は20兆元を超えているはずだ。アメリカのQE3(量的緩和)の縮小に伴い、ホットマネーが中国市場から引き、中国経済が底抜けする懸念が高まっている」
こう語るのは、北京のある中国要人だ。
私はこのほど、『日中「再」逆転』(講談社刊)を上梓した。
周知のように、'10年に日中のGDPは逆転し、世界はG2(米中)時代に突入すると言われた。だが習近平政権のこの約1年の執政を見ていると、目に映るのは「晴れがましい昇竜」ではなく、「のたうち回る傷竜」の姿なのだ。
これは何も、私の目にだけ映っている「光景」ではない。昨年9月に大連で「夏のダボス会議」が開催され、私も取材で訪れた。この時、世界から集まった約1500人のVIPは、「世界経済を牽引する中国」という従来の見方から、「中国経済は崩壊へと向かうのか」という疑心暗鬼の眼差しに変わっていた。
中国は、なぜそれほど凋落してしまったのか。それは一言で言えば、'92年に鄧小平の鶴の一声で始めた「社会主義市場経済」というシステムが、システム障害を起こしているからに他ならない。本来は矛盾する社会主義と市場経済という二つの概念だが、鄧小平は無理やり合体させ、中国を高度経済成長に導いた。だがいまや、市場経済があまりに巨大化したため、社会主義との矛盾が抜き差しならなくなっているのだ。
逆に日本は、周知のように民主党政権から自民党政権に変わって、経済は急速に復調している。実際、前述の夏のダボス会議でもアベノミクスは絶賛されていた。そうした日中の新たな潮流を詳述したのが同書だ。
今回、新年に北京を再訪して、さらにもう一段、中国の沈滞が進んでいることを実感した。
まず何より驚愕したのが、世界最悪の大気汚染である。深刻な大気汚染が首都を蝕んでいて、経済活動を停滞させている。北京は数十年ぶりの暖冬だというのに、道往く人もまばらだ。