
今国会でとんでもない法律が可決・成立した。その名も、改正タクシー事業適正化・活性化特別措置法。小泉政権時代に規制緩和したタクシー業界だが、台数が増えすぎて競争が過熱。食えないドライバーが増えたことから、今度は台数減らしを事実上義務付ける「規制強化」に踏み切るというのだが、これはとんでもない法改正である。
何より今回の改正特措法は、自民党、公明党、民主党による議員立法。実質的に法案は裏で国土交通省の官僚が書いているのだが、いずれにしても与野党が仲良く手を結んでいるのだから質が悪い。
しかも議員立法なので、政府の規制関係審議会はパス。だから、マスコミもほとんどノーチェックになっていて、特定秘密保護法に隠れてとんでもない悪法が成立してしまった形だ。
その内容は、以下の通り。「行き過ぎた規制緩和」のためにタクシーの台数が増え、結果として、運転手の過重な労働、賃金低下、タクシー事故率の高止まりなどがもたらされた。そのため、(1)需給調整の強化(特定地域における参入・増車の禁止、減車の強制)と、(1)運賃規制の強化(特定地域等では運賃の幅を公定)を図るというもの。パッと見てわかる通り、これでは社会主義国家と何ら変わらない「市場原理」の逸脱である。
そもそも、「行き過ぎた規制緩和により弊害が生じた」という認識が誤っている。むしろ、「中途半端な規制緩和により弊害が生じた」と考えるべきなのだ。
小泉政権時代の2002年法改正では、需給規制は廃止したものの、官僚が抵抗して運賃については認可制のもとで制約が残された。その結果、運賃の弾力化が十分には進まなかったという経緯がある。そのため、十分に価格が下がらないうえ需要が増えないまま供給が増加し、需給ギャップが生じた。
タクシー事故率の高止まりという問題についても、小泉政権下の規制緩和の前後、民主党政権の規制強化の前後を見ると、いずれも影響がなく増え続けている。つまり、事故率の高止まりは規制の緩和・強化とは別問題のものであって、労働時間の規制や運転手に対する技能研修・車両の点検といった安全規制の強化によって対処すべきものだといえる。
要するに、こうしたことを理由として、タクシーの台数を減らして料金を値上げさせるというのでは、運転手の健康や処遇、さらにタクシーの安全性そのものを改善させる効果を何らもたらさない。