社会への関心がきわめて薄い物語
オールコットの『若草物語』は19世紀のアメリカ小説である。
十代の四姉妹のお話だ。
以下、小説内容について詳しく触れる。
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父は従軍していて家を不在にしているが、小説中、何の戦争か書かれていない。
そもそもどの国のどこの話なのかも、最初のうちはわからない。
私はずいぶん大人になってから初めて読んだのだが、何の知識も持たずに読み始めたので、いつのどこの国のどの戦争のことなのか、まったくわからなかった。戦争の具体について何も(最初のうちは)書いてないからだ。
そういえばこの小説より55年前に出されたオースティンの『自負と偏見(高慢と偏見)』もまた五姉妹の話であり、駐留したり動いたりなにやら軍隊が忙しそうにしているが、どこと戦っていて何で慌ただしいのか、説明がない。
『若草物語』(1868年出版)のほうは南北戦争中のアメリカ、『自負と偏見』(1817年出版)のほうはナポレオンの戦争の影響にあるイギリスである。
『若草物語』は父が負傷して母が急いで駆けつけるシーンがあるので、戦争について少し触れているが、『自負と偏見』では軍人が来るとかっこいいので下の妹たちがはしゃぐというレベルでしか触れられない。
19世紀の姉妹の物語は、社会への関心がきわめて薄い。
そこがこの物語の特質でもある。