「白目」は「暴力的メンバー暗殺」の名残!?…人間の「家畜化」に一役買った、その“誰も知らない”関係

人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等、不適切な発言への社会的制裁…。

世界ではいま、モラルに関する論争が過熱している。「遠い国のかわいそうな人たち」には限りなく優しいのに、ちょっと目立つ身近な他者は徹底的に叩き、モラルに反する著名人を厳しく罰する私たち。

この分断が進む世界で、私たちはどのように「正しさ」と向き合うべきか?

オランダ・ユトレヒト大学准教授であるハンノ・ザウアーが、歴史、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えながら「善と悪」の本質をあぶりだす話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』長谷川圭訳)が、日本でも刊行される。同書より、内容を一部抜粋・再編集してお届けする。

『MORAL 善悪と道徳の人類史』 連載第37回

『「獰猛」だった野生のキツネがたった数十年で「温厚」に!?…ついに解明された“家畜化症候群の謎”』より続く

人間の「白目」は色素脱失

人間の自己家畜化は、人の行動だけでなく、認知面も大きく変えた。それにより、思いやりが増し、荒々しさが減り、高度な社会生活が営めるようになった。脆弱なメンバーで構成される集団の平和が、突発的な暴力によってかき乱されることが減っていった。その結果、高いコミュニケーション能力や社会認知力—他人が何を考え、何を望んでいるのかを察知する能力—がますます求められるようになっていった。

ちなみに、色素脱失は人間でも見られる。白目部分だ。白目のおかげで、誰がどこに視線を向け、何を見つめているのかを簡単に知ることができる。つまり、意図や考えを他人に伝えやすい。一方、類人猿の眼球はほとんど真っ黒だ。そのため、彼らが何に注目しているのかを察知するのはとても難しい。

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これら認知能力の基盤は大脳新皮質の前頭葉にあり、前頭葉は行動の制御と操作をつかさどっている。事故、あるいは腫瘍や脳卒中などで額の内側にある前頭葉を損傷すると、行動と計画能力が制限され、意図を実行するのが困難になる。そのため衝動的になり、自制心が下がり、規範や規則が守れなくなる。この現象は「後天的ソシオパス」と呼ばれることもある。