イスラエルが負けても地獄、勝っても地獄…欧米諸国が直面している「あまりに最悪な状況」
欧米諸国主導の「国際社会の法の支配」は破綻を迎えている
1月26日金曜日、国際司法裁判所(International Court of Justice: ICJ)のガザ危機をめぐる仮保全措置の命令が下された。ジェノサイド条約に基づいて、イスラエル政府にジェノサイド的行為を慎み、予防することを求めた内容だ。この命令は法的拘束力を持つ。
ICJは、「世界法廷(world court)」とも呼ばれ、国際法の解釈に関しては他の機関の追随を許さない絶大な権威を持つ。そのICJが行った判断は、世界各国の政府の行動に、将来にわたって影響を与え続ける。
もちろん法的拘束力のある決定を行ったからといって、ICJが自らの決定に諸国の政府を従わせる実力を行使することができるわけではない。しかしそれにもかからず、 法解釈から思想や世界観といった広い領域での道徳的影響力の浸透を通じて、ICJの判断は政治的な重みを持っていく。
劣勢に立たされた形のイスラエルだが、黙ってはいない。反発している。しかも、間髪を入れず、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)職員が10月7日のハマスのテロ攻撃に加担していた、という糾弾の声を上げた。UNRWAのガザの惨状を訴える声明は、ICJの命令文で、何度も引用された。1949年以来パレスチナ人の生活を支え続けてきたUNRWAとイスラエル政府と関係は、もともと複雑なものだったが、今や全面的なイスラエル政府の敵意の対象になっていると言える。
イスラエル政府の糾弾を受けて、まず米国が、UNRWAへの資金提供の打ち切りを表明した。さらに欧州の主要ドナー国が、週末の間に、次々と資金提供の打ち切りを表明した。日本も28日日曜の深夜に追随する声明を出した。全て週末の間の動きである。強烈な外交攻勢が起こっていたと推測される。
ICJは、ジェノサイドを防止する義務を果たすべくイスラエル政府が人道援助の提供に努力しなければならないことを命令していた。これに公然と反旗を翻すように、UNRWAの最大資金提供国であるアメリカに訴えかけて、資金提供停止の国際的流れを作るように働きかけた。もちろんハマスのテロ攻撃に加担した可能性のある者を捜査対象にするのは当然だろう。しかしイスラエル政府の動きは、刑事事件としての犯罪捜査よりも、UNRWAの資金提供国に資金提供を停止することを呼び掛ける政治的動きを優先したと言わざるを得ない点で、ジェノサイド条約に基づく義務の遂行を命令したICJに真っ向から挑戦する態度だと言える。
UNRWAは、パレスチナ難民の生活を支えていた特別な国連機関だ。UNRWAがなければ、占領下のパレスチナ人は生きていけない。逆に、国際難民条約による保護対象になる。周辺国は、パレスチナ難民が訪れたら、受け入れなければならない。イスラエルは、エジプトに、ガザの人々を難民として受け入れさせる強烈なシグナルを出してきた、とも言える。ICJの判決に真っ向から挑戦し、事実上、パレスチナの地に生きるパレスチナ人を、パレスチナから追放するための新たな行動である。
戦争においては、悲しいことに、一般市民が被害を受ける。しかし、それにしても、ガザの人々ほど、政治的駆け引きの対象にされながら、甚大な犠牲を払っている人々も、他に類例がないのではないか。
果たしてイスラエルは、ハマスを駆逐し、ガザを完全に掌握する試みにおいて、完全勝利を収めるか。あるいはその苛烈な試みは挫折するか。
イスラエルを支持する欧米諸国にとっては、イスラエルの敗北も地獄だろうが、国際世論を敵に回すイスラエル完全勝利のシナリオも、また別の地獄だと言える。結果がどのようなものになるのであれ、一つはっきりしているのは、欧米諸国主導の「国際社会の法の支配」のお題目は、破綻を迎えている、ということだろう。