行方の見えない「ガザ危機」で、これから起こりうる「3つの主要なシナリオ」

4日間の休戦は良い兆しだが

ガザ危機の行方が見えない。人道危機が深刻化する一方、戦争の終わりは見えない。4日間の休戦によって、人質の一部の交換解放が行われた。良い兆しではある。だがこれがどのような中期的・長期的な政治的展開につながっていくのかは、依然として不透明なままだ。

現状で、確定的な見通しを出すことは、誰にもできない。ただし、だからこそ、起こり得るシナリオの範囲を見定めながら、将来に向けた布石を打つ、あるいは少なくとも政策的対応をするための準備をとっておくことは、必要なことである。

本稿では、その観点から、可能性の範囲を見定めて、主要なシナリオのパターンを描き出すことを試みる。

シナリオ1:イスラエルの全面勝利

イスラエルとハマスの軍事的な対決が、現在の戦争の基本構図だと考えてみよう。その構図にしたがって軍事的実力を評価するならば、イスラエル軍が圧倒的に優勢である。イスラエル政府は、もちろんその相対的優位な分野について、極めて意識的である。そのため10月7日のハマスのテロ攻撃に直面した後、圧倒的な軍事的優勢を活かしてハマスを軍事的に駆逐することを狙ってきている。

イスラエル軍の攻撃では、頻繁かつ深刻な程度で、国際人道法の疑いが強い行動が見られている。国際的な批判も高まっている。人道的休戦を呼び掛ける国連総会決議が、121カ国の賛成票(反対は14カ国のみ)を集めて採択されたのは、イスラエルに厳しい国際世論の現状を示している。しかしそのような国際的な批判を受けてもなお、イスラエル軍が強硬姿勢を崩さないのは、ハマスに対して圧倒的な優位を持つ軍事的力の部分で、一気に決着をつけてしまいたいからである。

もしイスラエルの思惑がかなって、ハマスが完全に駆逐されると仮定しよう。それは理論的には可能であるかもしれない。しかし凄惨な結果を伴うシナリオである。

過去の1カ月余りの軍事作戦を通じて、イスラエル軍は少なくとも1万人以上のガザ市民を死に至らしめたと言われている。そのほとんどが一般市民であるが、イスラエル軍はハマスに関係を持っていた人々でなければ、やむをえない付随的損害であり、その被害の全ての責任はハマスだけが負う、と主張している。

イスラエルは、シファ病院の地下にハマスの司令部があると主張して病院を攻撃して占拠し、院長を拘束までした。しかし軍事制圧からかなりの時間がたってから、ようやく少量の武器が院内から発見されたという動画を発表し、それからまたかなりの時間がたってから地下にあたる部分からトンネルが発見されたと発表するのみで、「病院地下のハマスの司令部」と言える存在の証拠は遂に示すことなく、病院地下部分を自ら爆破して粉々にしてしまった。実はトンネルそのものは、すでにかつてイスラエルがガザ地区を直接管理していた時代にイスラエルが建設していたことがわかっている。トンネルの残滓のようなものの発見では、国際人道法違反に該当する病院の攻撃を正当化するための病院の軍事施設化の証明にはほど遠い。

このような状況では、国際世論はイスラエルの行動に対して厳しくなるばかりだが、今後もイスラエル軍の行動は、変わる兆しがない。イスラエルのネタニヤフ政権は、首相自身がスキャンダルを抱えて支持率を落としていたがゆえに軍事作戦で人気回復を図りたいであろう強硬派であるだけでなく、連立政権内部に宗教極右勢力を抱えている。穏健派が政策に影響を与えるのは、容易ではない構図になっている。

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もっともそれでもイスラエルが4日間の休戦に応じたことには、注目をしてもいいかもしれない。それによって、苛烈な1カ月間以上の軍事攻撃では達成されなかった人質の解放が、一部ではあれ、達成された。マルタ提案の人道的一時休止の国連安全保障理事会決議が、アメリカが拒否権発動しなかったため、採択された後のことだ。安保理決議には、法的拘束力がある。イスラエルとしては、アリバイ作りの意味も含めて、戦闘中断に応じたのだと言える。結果的に、国連の権威を含めて、国際世論の動向が、全くイスラエルの行動に影響を与ええないわけではないことが、示された。

しかし予断は許されない。イスラエルは、一時休止後のさらに大規模な軍事攻勢を誓っている。依然として、甚大な数の人命の損失、及び町の物理的な損壊が、不安視される深刻な事態だ。

イスラエルが、甚大な犠牲を度外視して行動し、国際世論の圧力はねのけて、ガザ全域を軍事的に制圧し、ハマスの勢力を駆逐した、と仮定しよう。それでどうなるのかと言えば、荒廃したガザに残る人々を、イスラエルが管理し続ける事態が発生する。イスラエルは、ガザ市民の生活に必要となる資金を国際社会の資金提供で賄うことを画策するだろうが、世界の大多数の諸国は、占領国イスラエルの責任を主張するだろう。わずかに欧米諸国やその友好諸国が、イスラエルの呼びかけに応じるかもしれないが、多大な負担が生じる。ウクライナ支援ですでに疲弊している欧米諸国が、その負担に耐えられるかは、不明だ。戦時体制経済を維持し続けるイスラエルそのものにも、大きな社会経済的負担がかかるだろう。もちろんガザ市民及び周辺諸国のほとんどは、イスラエルに敵意を持つ状態が続く。もしイスラエルの極右勢力が、ガザに対する入植活動を始めるようであれば、世界中で一層の反イスラエル感情が高まる。そのような占領体制が、長期にわたって維持可能だと考えることは、極めて難しい。混沌に次ぐ混沌が、待ち受けている。

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