規模は欧米の巨大製薬会社の10分の1以下。なぜ、エーザイだけが、アルツハイマー病治療薬を開発できたのか? 20年以上にわたり、直接取材で同社を見続けてきた著者がその秘密を全公開する。
研究開発こそ企業の生命線
良い報せも悪い報せも、土曜日の早朝にやってきた。
米国の規制当局FDA(食品医薬品局)の発表は、株価への影響が少ない現地時間の金曜日、ニューヨーク証券取引市場が閉まってからの時間であることが多い。
エーザイのCEO(最高経営責任者)内藤晴夫(75歳)は、その日も、携帯をベッドの枕脇において寝た。自宅は東京・小石川のエーザイ本社から歩いて2分の距離。
1月7日の日本時間午前4時、けたたましい携帯の音で目を覚ました内藤は画面の表示を見る。
米国における臨床開発の最高責任者からだ。
「Congratulations!」
エーザイの開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」が米FDAによって承認されたのである。

「アリセプト」以来、実に26年。不毛だったアルツハイマー病治療薬にようやく新薬が誕生した。
しかも、「レカネマブ」は「アリセプト」のような対症療法薬とは違う。病気の進行に直接働きかける薬だ。これを「疾患修飾薬」という。
なぜ、ビッグファーマと言われる欧米の巨大製薬会社の10分の1以下の規模しか持たないエーザイが、アルツハイマー病の疾患修飾薬という、世界のどの製薬会社もなしえなかった偉業を達成することができたのか?