2022.07.27

「安倍元首相は自らが生み出した『長期腐敗体制』の犠牲者です」 思想史家・白井聡が語る銃撃事件

連続在職日数2822日、憲政史上最長の政権を築いた安倍晋三元首相は、アベノミクスや集団的自衛権の行使など、賛否両論の政策を推し進めた。またスキャンダルにまみれたモリカケ問題では、国民を二分する激しい対立を引き起こしもした。

2012年12月に成立した第2次安倍政権とは何だったのか。安倍氏が殺害されるひと月前、奇しくもその実態を論考した『長期腐敗体制』(角川新書)を上梓していたのが、思想史家であり政治学者の白井聡・京都精華大学准教授だった。

ベストセラー『永続敗戦論』をはじめ、戦後日本政治史の核心をつく著作を発表し続ける白井氏に、第2次安倍政権以降の「体制」について、その真相を語ってもらった。

                            (取材・文 小林空)

白井聡氏

「自公政権はきわめて歪な『体制』と化している」

――安倍晋三元総理が凶弾に倒れました。

まずは哀悼の意を表したいと思います。あまりに衝撃的で言葉もありません。

事件の解明はまだこれからですが、歴史にその真相を正しく刻むべき事件となることは間違いない。

近年、暴力の激発が増大しています。秋葉原の無差別殺傷事件、相模原の障害者無差別殺傷事件もしかり。また在日コリアンへのヘイトスクラムであると指摘される京都宇治のウトロ地区への放火事件も記憶に新しく、暴力はエスカレートしてきたわけですが、ついに体制側への暴力が発生してしまった。今後、暴力の連鎖が生じかねないという危機感が募ります。

――安倍氏を殺害したのは、母が深く信仰し、その財産を収奪的に献金した統一教会に深い怨恨をもっていた山上徹也容疑者でした。

彼は団塊ジュニア世代でもあり、一時、自衛隊に所属しますが、その後は非正規として職を転々としていたようです。バブル期に育ち、「失われた30年」に主に非正規社員として社会人生活を送っていた。典型定なロスジェネの貧困不安定層ですね。

安倍氏が統一教会と関わりがあったことが今回の事件の発端と考えられますが、同時に安倍氏は「失われた30年」の期間に憲政史上最長の政権を築いた総理でもありました。山上容疑者は特異な家庭に育ち、苦しんだ挙句にこの凶行に至りましたが、本来は大学に進学できる十分な学力があったはずでしょう。彼のような不利な環境で育った人に対する公助が不足している現実が、図らずも露呈することとなりました。

 

――政治史的な観点から、今回の事件をどのように解釈しますか?

私は2012年以降発足した安倍政権から現在の岸田文雄に至る自公政権は、きわめて歪な「体制」と化していると考えています。それを私は長期腐敗体制と呼んでいるわけですが、その間に露呈した数々の無能、不正、腐敗にブレーキが掛けられなかったことで、その恩恵にあずかる一部の既得権者を押し上げる一方で、多くの国民の生活は疲弊していきました。そういう意味で、今回の衝撃的で傷ましい事件で、安倍氏自身も長期腐敗体制の犠牲者となったと言うべきではないか。いまはそんな感想を抱くことを禁じ得ません。

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