信者にも激震が走った「地下鉄サリン事件」
最近、NHKオンデマンドの『未解決事件 File.02 オウム真理教 17年目の真実』を見た。
地下鉄サリン事件が25年前の1995年であったことを考えると、若い読者の中には当時の事件のインパクトが分からない方も多いだろう。丸の内線、日比谷線、千代田線の車両の中で通勤ラッシュ時間に猛毒ガスが散布されて14人が死亡。大量の負傷者を出した。

なぜ、愛を教えているはずの宗教団体が大量殺人を計画するのか。それまで一般社会人だった人は、どのように洗脳されてオウム心理教のような教団と教祖を信望するようになるのか。信者はどういった正義感で地下鉄サリン事件を起こそうとおもったのか。通常感覚でいえば謎だらけである。
実は私はこの時24歳で、ちょうどものみの塔(通称エホバの証人)の世界本部で集団生活をしている時だった。当時の教団の総本山であるブルックリンに3000人の熱心な信者が共同生活を行なっていた。
私は製本工場と発送部門に配属されており、工場で毎日肉体労働をしていた。教団が提供する一部屋に二人の信者と住み、食事は教団が提供してくれる。毎月の労働の対価は1ヵ月わずか90ドル(約1万円)。それでも当時は自分が幸せだと疑うことはなかった。
そんな私がオウムのニュースを知ったのは、このブルックリンにいた時である。オウムのニュースをみた時に最初に思ったのは「洗脳されているカルト教団って怖いな」である。おもしろいもので私自身もそうだったのだが、洗脳状態におかれている者は自分が洗脳されている自覚が全くない。
エホバの証人の間でもオウムは大きな話題であった。なぜならオウム信者は、世界の終わり――つまりハルマゲドンを信じていたのだが、ものみの塔も同じであったからだ。
私なんかは「ハルマゲドンが来るから大学に行く必要もない」と教えられてきたくらいだ。世界全体がタイタニック号のように沈もうとしている時に、あなたは世の中で成功しようと無意味なことをするだろうか。