新型コロナウイルス(Covid-19)の感染拡大が、国民生活にも日本経済にも大きな影響を及ぼし、医療など日本の社会保障の脆弱さを可視化した。
何より、新型コロナの感染拡大地域では医療提供体制がひっ迫し、医療が機能不全に陥る「医療崩壊」が現実化した。病床や感染症治療を担う公的・公立病院や保健所を削減し、医師数を抑制してきた日本の医療費抑制策のツケが回ってきたともいえる。
しかし、安倍政権は、医療崩壊に歯止めをかけるために十分な予算措置を取ることなく、事業者への「補償なき自粛要請」、医療現場や国民への「自助努力」の無理強いだけで全くの無策である。
本稿では、医療費抑制策を中心としたこれまでの医療政策を検証し、新型コロナの感染拡大による医療崩壊の現状を概観したうえで、医療崩壊に歯止めをかける緊急提言を行う。

「指定医療機関」「感染症病床」の激減
医療崩壊が現実化した背景には、医療費抑制策を続けてきた国の医療政策がある。そして、医療費抑制策の中心は、病院・病床の削減と医師数の抑制に置かれてきた。
新型コロナの感染拡大で、とくに「感染症指定医療機関」や「感染症病床」の不足が問題となっている。国は、感染症の患者が減ってきたことを理由に(実際は微増なのだが)、20年以上にわたって指定医療機関や感染症病床を削減してきた。
新型コロナなど「2類感染症」と呼ばれる感染症の患者に対応できる第2種感染症指定医療機関は全国で475病院にすぎず、自治体が運営する公立病院や日本赤十字社などが運営する公的病院がその約8割を占める。
感染症病床は、一般病床とは区分され、病室の空気が外部に漏れないようにする空調構造を備えた陰圧隔離病床でなくてはならないが、その数は、1996年に9716床あったものが、2019年には1758床と激減している。