石破氏は憲法学通説と決別できるか
「安倍三選」「石破善戦」の自民党総裁選が終わり、石破氏は入閣も果たせなか
った。しかし首相の有力な対抗馬としての地位は確立した。
今後も引き続き安倍首相と石破氏の動向が、注目を集めていくことになるだろう。
そのことは何を意味するのか。
石破氏は「正直・公正」を掲げた。しかし石破氏の批判者は、石破氏は原理主義
的すぎるとも評する。それはどういうことだろうか。
両者の議論が興味深い対比を見せた改憲問題を糸口に考えてみたい

安倍案と石破案の違い
安倍首相が推進する改憲案は、憲法9条の追加条項で「自衛隊」の語を挿入し、自衛隊の合憲性を確かにする、というものである。現在、自民党はこの案を標榜している。
安倍首相の特徴は、憲法学者たちとの対立関係だ。
昨年にこの改憲案を推進したい旨を表明した際、安倍首相は、多くの憲法学者が自衛隊の違憲性を信じている、だから改憲が必要だ、と説明した。
当然のことながら、数多くの憲法学者が安倍首相に強く反発した。ある憲法学者は、全ての憲法学者が自衛隊は違憲だと言っているわけではないので、改憲は不要だと主張した。
また、安倍首相は姑息なやり方で戦前の軍国主義を復活させようとしている、といった主張もあった。2015年安保法制の際もそうだったが、安倍首相と憲法学者の間の対立関係は、劇的である。
これに対して、石破氏の憲法改正案は、9条2項削除論として知られる。「戦力」不保持を定めた憲法9条2項があることが問題として、これを削除したうえで、国防軍の規定を入れようとする。野党時代の自民党改憲案の内容に沿った考えである。伝統的な正面からの改憲案だと言える。
驚くべきことに、安倍首相個人への憎しみで大同団結している勢力は、石破氏を攻撃するどころか、むしろ安倍首相の強力な対抗馬として持ち上げた。奇妙な逆説的状況は、今回の自民党総裁選の際に顕著な傾向となった。
もっとも護憲派が陰ながら石破氏に親近感を持つ背景には、理論的な事情もある。というのは、実は、石破氏の憲法解釈は、伝統的な憲法学通説そのままだからである。
憲法9条2項が問題なので削除しなければならないという議論は、現在の自衛隊に違憲の疑いがあると示唆することに等しい。自衛隊違憲論に立つ憲法学者と同じ立場である。
石破氏は、伝統的な憲法学の通説をそのまま受け入れたうえで、そんな憲法ではダメだ、ということで、大幅な改憲を訴えるのである。そうだとすれば、護憲派が、石破氏を持ち上げたうえで、ただ後で国民投票は不可能だということにしようとするのは、自然な流れなのかもしれない。
自衛隊の合憲性を確保し、自衛隊の活動の発展を目指す、という政治的な方向性だけを見れば、安倍首相と石橋氏の路線に大きな違いはない。しかし憲法解釈で異なるため、改憲案も大きく異なってしまうのだ。一方は憲法学通説と距離を取り、他方は憲法学通説を前提とする。
安倍改案と石破改憲案の違いは、政府見解との距離の取り方でもあるかもしれないが、別の言い方をすれば、伝統的な憲法学通説を受け入れるかどうか、の違いでもある。