GoogleやFacebook、メルカリなどで導入され、最近注目を浴びる目標設定・管理のためのフレームワーク「OKR(Objective and Key Result=目標と主な成果)」。KPIに代表される目標設定の指標よりも、シンプルで目標達成への道のりがわかりやすいことが特徴として挙げられるが、さらには「OKRは個人の自己実現に役立つ」と話す人がいる。
元Googleで人材開発を担当し、現在は「未来創造企業」をうたうプロノイア・グループ代表取締役であるピョートル・フェリクス・グジバチさん。彼はどのようにOKRを活用してきたのか。Googleでの体験談やプロノイアでの実践方法を語ってくれた。
取材・文/小林有希、撮影協力/Yahoo! JAPAN「LODGE」
OKRで組織と個人の目標が一致する
OKRとは「Objective and Key Result(目標と主な成果)」の略で、チームや個人の目標を明確化するためのメソッドです。組織が掲げる理念、事業目標に基づき、Object(目標)を定め、達成するための条件をKey Result(主な成果)に入れます。定量的な指標は、どちらかというとKRのほうに入れ込むことが多いですね。
例えば、広報担当が「ブランドの認知度を高めたい」をOに設定したら、それを達成するために「コラボイベントを今期中に5回開催」、「SNSフォロワー1万人超える」など3つ、4つのKRをつけます。さらにKRの達成に、具体的にどう行動すればいいか詳細を詰めることも。
Googleでは、すべての目標設定、評価をOKRに紐づけて動いています。例えば、毎年1月に発表される組織全体のOKRを半期毎にブレイクダウンし、それに合わせて部署、チーム、個人のレベルのOKRを、社員は上司と相談しながら決めていきます。
ただ、個人のOKRがすべてチームの目標と合致しているわけではありません。Googleには勤務時間のうち20%を自分が企画したことに使える「20%プロジェクト」があるため、その目標も個人のOKRに盛り込まれます。
上司は、自分がそのプロジェクトに関わっていなくても、毎週1対1で部下とミーティングをし、現状報告からちょっとした相談に応じて、コーチングをしていくのです。
既存のフレームワークと異なる点は、組織内で定められたOKRをすべて社員同士で共有することです。それによって組織と個人の目標にズレがなくなり、またそれぞれの社員がどのように行動しているのか可視化されるため、スムーズな情報共有やコミュニケーションを図れるメソッドです。
似ているようで正反対のKPIとOKR
よく似たものとしてKPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)が挙げられますが、実はOKRとは真逆のものです。決定的な違いは、上司とのコミュニケーションによる調整にあります。
KPIは経営者からのトップダウンで行われる目標設定のため、いったん決めると、基本はその期が終わるまで変更されません。根本にあるのは性悪説、つまり部下がなにをするかわからないから「上司のオーダーに従いなさい」という考えから行動しています。
例えば、とあるメーカーの今期のKPIが純利益100万円増でしたら、製造では全体コストを10万円分減しなさい、営業は得意先を50件増やしなさいといったオーダーが上から降りてくるため、個人がKPIを自分の意思で選択することはあまりありません。
そして各部署で定められたオーダーを100%以上で達成することが評価の条件となります。KPIは企画ありきで進める「企画主義」なので、出されたオーダーを社員全員が達成しないと企画自体が崩れかねません。部下は上司から「なぜあなたはできていないのか」「ほかの人はできているのに」とせっつかれ、ミッション達成以外はすべて悪という状態に。
ではOKRはというと、全社が掲げるミッション、経営理念、今期のOKRに対して「あなたならどうしますか?」と投げかけます。性善説に基づいて相手に自発的な行動を促し、部下はどのようにミッションに貢献できるかを上司と話し合い、決めていくのです。