「核家族化が進んでいる」は本当か? データから徹底検証

子どもの成長・発達に悪影響なのか

「核家族化が進行している」――ニュース等でこうした表現を見聞きする機会は多い。しかし、戦後、核家族は本当に増えたのか? そして核家族は問題なのか? 核家族に関する研究もおこなってきた広井多鶴子・実践女子大学教授が、各種データを用いて思い込みを覆す。

核家族化は問題なのか

マスコミでも、研究の分野でも、行政や政策の分野でも、戦後一貫して「核家族化」が進行してきたかのように言われることが少なくない。

とりわけ子どもの問題が語られる際には、「近年の都市化、核家族化、少子化によって……」というフレーズが、まるで常套句のように使われる。

核家族化によって家庭の「教育力」や「教育機能」が低下したとも言われる。それゆえ、少年犯罪も、不登校も、いじめも、児童虐待も、つまり、子どもにかかわるあらゆる問題の背景には、核家族化があるかのように考えられている。

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核家族化によって、子どもと接したことのない親や、子育ての仕方がわからない親が増えている。

核家族では祖父母の協力が得られず、母親の負担が大きい。母子密着や育児不安に陥りやすい。過保護・過干渉になりやすい。しつけがちゃんとできない。

核家族は親族や地域社会から孤立した閉鎖的な家族である。こうしたストーリーができあがっているからである。

〔PHOTO〕iStock

だが、子どもの種々の問題と核家族化との因果関係が明らかになっているわけではない。そのため、たとえば何か事件や問題が起ったとき、多くの人は「核家族で育ったからだ」などとは考えない。

にもかかわらず、なぜか核家族化は、子どもにとってよくないものとされている。そのこと自体、おかしなことではないだろうか。

それ以前に、実はそもそも核家族化自体、自明なことではない。「核家族化が進行している」というとき、核家族率がどれだけ上昇したなどというデータが示されることはほとんどない。

その点、必ず合計特殊出生率の数値が挙げられる少子化とは対照的だ。それほど核家族化は自明のこととされてきたからだろうが、それによって、子どもの問題が安易に核家族化のせいにされているように思えてならない。

ここで核家族(化)には問題がないと言いたいわけではない。だが、核家族は不当に低く評価されている。このことは、頑張って子育てをしている現在の父親や母親を不当にネガティブに評価することにもなるのではないだろうか。

そこで、今回は核家族に関し、「核家族化はいつどのように進展してきたか」について考えてみたいと思う。

戦前は「三世代家族」が普通?

核家族の否定的なイメージが説得力を持っているのは、これとは反対の「昔」の家族のイメージがあるからだろう。

「昔」はほとんどが三世代家族であり、だからこそ子どもはうまく育ったかのように考えられている。

三世代家族では、祖父母から若い親に育児の慣習や経験が伝えられた、子どもは親からだけでなく、祖父母からもしつけを受けた、等々とよく言われる。

「昔」の家族は、かつては「直系家族」とか「拡大家族」と言われた。それを「三世代家族」や「二世帯居同居家族」などと呼ぶこと自体がイメージのすり替えなのだが……。

ともあれ、そうした「昔」の家族がいつ崩壊し、いつから核家族化が進行したと考えられているのか。

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以下は、1996(平成8)年版の『厚生白書』の引用である。かなり前のものだが、こうした理解がいまでも最も一般的な理解だろう。

かつての農村社会においては、祖父母、息子夫婦、その子どもなどが同一の世帯に住む多世代同居が普通であり、いわゆる大家族が社会の基礎的単位となっていた。(中略 だが、工業化や産業構造の転換の過程で)人々は職を求めて農村から都市に流入し、家族の形態も、多世代が同居する大家族から核家族へと変容し、夫は外で働き、妻は家事を担うという男女の役割分担が確立していく。産業化に伴うこのような家族形態の変化は、西欧社会にあっては19世紀頃から進行し始めるが、我が国では大正末期から昭和初期にかけて都市部のサラリーマン層を中心に始まり、戦後、高度経済成長の過程で一般化していった。
(第1編第1章第1説1 家族の変容と社会)

このように、戦前は農村社会であり、農村社会では「多世代同居」が「普通」だったと考えられている。果たしてそうだろうか。

図表1は国勢調査のデータである。

これによると、1920(大正9)年に行なわれた第1回国勢調査でも、核家族世帯の方が「その他の親族世帯」(多くは三世代家族)よりも多く、55.3%を占める(後述の図表2では59.1%)。

「普通世帯」の推移。国立社会保障人口問題研究所の「人口統計資料集(2017改訂版)」の「表7−11」より作成
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このように、1920年の時点でも核家族世帯が多数を占めていたが、それは考えてみれば当然のことだろう。

一つには、きょうだい数が多かったからである(1920年の合計特殊出生率は5.24)。そして、もう一つは、平均寿命が短く、死亡率が高かったからだ。

人口学者の岡崎陽一は1935、36(昭和10、11)年の生命表をもとに、「家族形成」の標準的モデルを作成している。

それによれば、祖父は63歳、祖母は66歳で死亡。祖父の死亡時、最初の孫は1歳、祖母の死亡時は4歳である。子どもの多くは祖父母の記憶すらないことになる。

そのため、岡崎は、「平均寿命を50年から80年に延ばした死亡率の低下は、親と子の二世代だけではなく、祖父母と孫を含む三世代のつながりを一段と長く、意義深いものにする可能性を与えた」と指摘している(岡崎陽一『家族のゆくえ』東京大学出版会、1990年)。

つまり、戦前は、第一次産業が多数を占める農村社会だから、子どもは祖父母のいる三世代家族の中で育つのが普通だったかのように考えるのは幻想にすぎない。

現代社会こそ、祖父母が元気で長生きをし、孫と交流することが可能な時代なのである。

高度経済成長期に急速に核家族化したか

では戦後はどうか。

1950年代末からの高度経済成長とともに、核家族化が急速に進展したといわれている。確かに、図表1では、1960年以降、核家族世帯の数が大幅に増加している。

そのため、親族世帯に占める核家族の割合は増え続けてきた(図表2)。

1960年に59.1%だった核家族率は、2015年には86.7%となり、それとともに、36.5%だった「その他の親族世帯」の割合は、13.3%にまで減少する。

核家族化の進行というときは、主にこのデータが用いられるが、図表2からすると、1960年代以降の核家族化によって、今やほとんどの人が核家族世帯で暮らしているように思える。

出典:図表1と同じ
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だが、核家族の中には親と子の世帯だけでなく、夫婦だけの世帯も含まれる。図表3はその内訳である。

これによると、親と子どもの世帯(夫婦と子ども、父親と子ども、母親と子どもの合計)の割合は、1960年の54.7%から70年には59.1%へと4.4%増える。

だがその後は増えず、80年まで横ばいで推移した後、徐々に減少する。2015年は55.4%と、60年と大差ない。主に高齢化のため、夫婦のみの世帯がじわじわと増え続けてきたためである。

出典:図表1と同じ
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単独世帯が増加している

また、図表1にあるように、1960年代以降、単独世帯が大幅に増えた。そのため、単独世帯を含む世帯全体からすると、図表1、2とは全く別の結果になる。これは子どものいる世帯にはあまり関係しないが、ついでに見ておこう。

図表4は、単独世帯や非親族世帯を含めた全世帯の世帯類型の割合である。これを見ると、「その他の親族世帯」は減少し続け、いまや1割を切るようになった。

出典:図表1と同じ
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だが、核家族世帯が増えているわけではない。核家族世帯は戦後一貫して約6割で推移しており、高度経済成長期もほとんど増えていない。

2000年代に入ってからはむしろ減少傾向にある。増加しているのは単独世帯であり、高齢化や未婚化・晩婚化の影響で、単独世帯がいまや3分の1を占める。

このように、図表4からすると、戦後「核家族化」が進展したとは言えない。近年の現象は、「核家族化」ではなく、「単独世帯化」と言った方がふさわしい。

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以上、世帯類型の推移を見てきたが、これらから言えるのは、核家族の世帯数は増加したが、割合でみると、必ずしもそうは言えないからである。分母を変えることによって、核家族化とは全く逆の結果にもなる。

しかも、これらのデータからは、幼い子どもや学齢児が育つ世帯の類型はわからない。

核家族化が進展したように見える図表1、2には、前述のように、夫婦だけの世帯が含まれるが、それに加え、成人した子どもと高齢の親からなる世帯なども入るからである。

にもかかわらず、図表1、2を根拠に、戦後核家族化が進行し、それが子どもの成長・発達に悪い影響を与えているかのように言われている。まずは、そのことの問題を確認しておこう。

子どもはどんな世帯で育っているか

では、子どもはどのような世帯で育っているのか。

図表5は、同じく国勢調査のデータであり、18歳未満の子どものいる世帯の内訳である。このグラフを見て、どのように感じるだろうか。

 
国立社会保障人口問題研究所の「人口統計資料集(2017改訂版)」の「表7−23」他より作成。 1955年の数値は舩橋惠子「変貌する家族と子育て」天野正子他編『岩波講座現代の教育 第7巻 ゆらぐ家族と地域』(1998年)による。
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これによると、子どものいる世帯の核家族率の推移は、次の3つの時期に分けられる。

(1)1955年から75年の20年間に、約6割から7割へと10%増加
(2)1975年から95年までの20年間は約70%で横ばい
(3)1995年から2015年までの20年間で約9%増加し、2015年は83%

確かに、高度経済成長期に核家族率は10%ほど増加したが、75年から95年までの20年間は約7割で、全くといっていいほど変化はない。そうである以上、戦後一貫して核家族化が進展したなどとはとても言えないだろう。

にもかかわらず、不思議なことに、高度経済成長期が終了し、核家族率の上昇が止まった70年代から、核家族化が進展しているとして問題にされるようになる。

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「近居」が増えている

もっとも、1995年以降になると、再度核家族率が上昇する。現在は、およそ8割の子どもが核家族で育っている。

なぜ再度上昇したのかは別途分析が必要だが、これとかかわって、次のような興味深いデータがある。

図表6は、国立社会保障人口問題研究所が5年ごとに行なっている「出生動向基本調査」のデータを元に、「社会実情データ図録」が作成したものであり、夫婦(妻の年齢が50歳未満の初婚同士の夫婦)とその母親(子の祖母)との居住関係を表している。

 

そのため、父親(祖父)については不明だが、このデータからはこれまでみてきた国勢調査では分からない新たな傾向が分かる。

すなわち、国勢調査と同様、三世代同居が減少する一方で、夫婦とその母親(祖母)が同じ市区町村内に住む「近居」が増加しているということである。その結果、同居と近居を合計した数値は、2000年代に入ってからも約60%で変わらない。

次の図表7からも、近年、近居が増えていることが読み取れる。

国土審議会計画部会ライフスタイル・生活専門委員会「NPO活動を含む『多業』(マルチワーク)と『近居』の実態等に関する調査
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これは国土審議会計画部会ライフスタイル・生活専門委員会が2006年に行なった「NPO活動を含む『多業』(マルチワーク)と『近居』の実態等に関する調査」の結果である。

この調査では、「近居」を「日常的な往来ができる範囲に居住すること」と意味づけ、車または電車で1時間以内の範囲と定めている。

これから分かるのは、若い世代ほど親との同居率は低いが、近居率はかえって高いということである。

親の住居から車や電車で1時間以上離れた所に暮らしている人が多いのは、むしろ55歳以上(現在67歳以上)の年代である。

核家族は孤立した家族であるかのように言われるが、これらのデータからすると、そうした理解自体が怪しくなる。

今日の親世代は祖父母との同居は少なくなっているものの、近くに住むことで、祖父母と新たな関係を築いているものと思われる。

この点についても、次回以降、見ていきたい。

(つづく)

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