京都府「児童ポルノ規制条例検討会議検討結果報告書」

 以前に、京都府の「児童ポルノ規制条例」検討会議記録を紹介したことがあります。

京都府「児童ポルノ規制条例」検討会議記録
http://d.hatena.ne.jp/font-da/20110212/1297522756

このときは第4回までの記録が公開されていたのですが、その後の2回にわたる検討会で報告書が編まれ、今年3月に報告書が発行されていました。web上でも、PDFファイルで読めます。

「児童ポルノ規制条例検討会議 検討結果報告書」
http://www.pref.kyoto.jp/shingikai/seisyo-02/resources/1301015618479.pdf

この報告書は3月22日に座長の土井真一から京都府知事へと手渡されています。
 報告書には、児童ポルノの検挙実態も報告されています。全国の検挙数は増加しており、中高生の被害児童が多いものの、小学生も年間で50人以上が被害児童となっていることがわかります。
(念のため付記しておきますが、これは検挙数であり、被害件数自体が増えたと言えるデータではありません。警察側が、どれくらい検挙したのか、というデータです、なので被害実態というよりは、取り締まり実態です。どんなふうに警察が児童ポルノ規制に取り組んでいるのかを見るためのデータとして私は読んでいます)
 また具体的な事例としては、3件の少年による犯行があがっています*1。女子児童が、みずから児童ポルノを提供したとして検挙された例もあります。もちろん、大人が子どもの児童ポルノを製造・提供している例が圧倒的に多いとは思いますが、こうした事例も入り混じっているようです。
 条例に対する提言の基本姿勢は、「被害児童が精神的に苦痛を感じるために児童ポルノをなくすことが必要であり、廃棄に向けて対抗策を作っていかなければならない」というものです。よって「児童ポルノ対策については、警察、学校及び民間団体等の関係機関との連携を強化し、『啓発・教育』、『支援』及び『規制』を柱とした総合的な施策を展開していくこと」が求められ、「実在の児童(児童の生死は問わない)を被写体とするものに限定すること」が明言されています。
 そのため、被害児童の支援が必要であることが強調されています。第一に相談窓口を整備すること、第二に二次被害を防ぐこと、第三に児童だけでなくその家族への支援も整備することが挙げられ、具体案も提案されています。

 例えば、児童ポルノ等による性的虐待の被害に対応するため、児童相談所に相談窓口を設置し、専門的な知識に基づく迅速かつ適切な支援(助言・指導・一時保護・施設入所など)が行えるようにするなど、相談体制の強化を検討されたい。
 また、インターネット上の児童ポルノの被害は地域を越えるため、他府県で府内に居住する被害児童が発見された場合、またはその逆の場合においても、速やかに被害児童が居住する地域を所管する児童相談所に要保護通告がなされるよう、児童相談所同士の連携体制を強化することも大切である。

 さらにインターネットの規制を始め、地方自治体の手には負えない問題を児童ポルノは抱えているため、全国的な議論が必要だと指摘しています。
 基本的な規制の対象となる児童ポルノの定義は「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法」に準じ、児童に対する人権侵害に鑑みて勘案することが必要だとされています。
 条例としては「廃棄命令」を設けた場合、対象となる児童ポルノは性的行為を含むもので、もし性的刺激を喚起するが性的行為を含まないものを対象とする場合には、「性的虐待の程度が高いと思われる『全裸及び性器露出』に限定するほか、規制対象が客観的に明確になるようにする必要がある」と書かれています。この規定が必要だとしているのは、「性的行為を含まないが、ポルノとして消費できるもの」が明らかにあるのだけれども、それと「単なる子どもの写真」の線引きが難しいからでしょう。
 次に直罰については、対象となるのは性虐待として明確である「13歳未満の児童に対して強姦などの性的犯罪行為を構成する画像等」とされています。そこで、13歳未満の児童の性的行為を含む画像等を有償で取得する行為が、処罰の対象になります。また、有償となっていますが、金銭の授受がなくても、直接児童から物品や食事と引き換えに児童ポルノを手に入れることも対象になるとされています。こうした分類は、冤罪を防ぐための客観的基準として必要だとされています。冤罪については別項で詳しく述べられているので、引用します。

条例制定に当たり留意すべき事項
児童ポルノの取得・所持の規制については、冤罪発生の危険性や捜査権の拡大に対する危惧があるところであり、条例の制定に際しては、以下の点に十分留意をし、慎重な検討を重ねられることを望むものである。
(1) 条例の適用上の注意事項として、児童の権利保護という本来の目的を逸脱して、他の目的のためにこれを濫用するようなことが絶対にあってはならない旨を条例に規定すべきである。
(2)児童ポルノの取得・所持を規制するために行われる捜査及び調査によって、個人の私生活上の自由が不当に侵害されることがあってはならない。したがって、刑事訴訟法の規定に基づいて行われる適正な犯罪捜査の場合に限って、強制力が認められるべきである。
また、その他の行政上の調査についても、被害者から依頼のあった場合など、児童ポルノの取得・所持が疑われる具体的根拠がある場合に限定されるべきであり、調査に際しては個人のプライバシー等の保護に最大限配慮する必要があると考える。
(3)廃棄命令を出したり、刑事罰を科したりする場合には、行政及び訴追する側に児童ポルノに該当することなどを立証する責任があることは当然であり、児童ポルノの取得・所持が疑われる者に対して十分な反論の機会を与えるなど、適正な手続を保障する必要があると考える

 また、18歳未満がこうした画像を所持している場合には以下のように述べられています。

また、規制に対する違反者が18歳未満の児童であった場合には、児童の保護の趣旨に照らし、制裁を科すのは悪質な場合に限定すべきであり、指導による更生を基本とすべきであると考える。

 以上の条例への提言では「児童ポルノを閲覧することによって、性犯罪等が誘発されるという因果関係は立証されていない」ことが明言されています。しかしながら「実在の児童を被写体とする児童ポルノの流通・拡散が被写体である児童の人権を永続的に侵害することは明らかである」ために、児童ポルノは規制が必要だと述べられています。そしてこの条例を設立する府民には「 児童ポルノをなくしていくよう努めることは、府民一人ひとりの責務であることと自覚し、児童ポルノの被害者・加害者を生まない社会の実現に向け、府民全体で力を合わせて積極的に取り組んでいくこと」が必要であるとされています。責務には以下の二点も挙げられています。

・また、児童ポルノの流通・拡散を防止するため、児童ポルノを発見した場合は、速やかに警察やインターネットホットラインセンターなど関係機関へ通報するよう努めること。
・ 児童ポルノの被害が絶えない中、子どもが児童ポルノの被害に遭わないよう、保護者をはじめとする大人の責務として子どもの見守りに努めること。

 これらの提言に反対する人は少ないのではないでしょうか?これまで児童ポルノの議論では「誰が被害者なのか?」「誰をどう罰すのか?」が混線したまま語られることがよくありました。しかし、上の条例への提言は、実際の児童が被写体となるポルノの単純所持を禁止し、性的行為を含むものには廃棄命令を出し、13歳未満が被写体となるものを有償取得する場合には刑事罰の対象とすると明確に述べています。これは東京都の児童ポルノ規制とはまったく別の条例の推奨だと考えてよいと思います。さらには、児童に対する支援策の必要性を強調しており、加害者への厳罰よりも被害者への福祉的配慮を求めています。
 私自身は、児童ポルノ規制をめぐって、どのように考えていくのかに躊躇がありましたが、この提言にのっとった条例ならばもろ手を挙げて賛同します。京都府知事、および京都府議会には提言を真摯に受け止め、よい条例を作ってほしいと思います。
 また、国会でも児童ポルノの議論が再燃するようですが、どうかこの検討会の報告書を参照し、本当の意味での被害児童保護を優先した児童ポルノ規制に踏み切って欲しいと思います。

*1:個人的には、低年齢者による性暴力事例については、関心を持っています。決して少なくないはずですが、見えにくくなっています。特に、兄から妹への暴力についてはかなりの数の被害があるのではないか、と予測しています。オーストラリアでは具体的に、低年齢者の性暴力加害についての対応策の議論が始まっています